研究

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臨床研究紹介

当科の臨床研究のモットーは、『我々が麻酔の臨床において問題意識を持ったテーマに対しその解答を得るための臨床研究を計画・実行する』ことです。
例えば、単なる麻酔薬の違いによる“統計学的な“違いを求めるような研究ではなく、様々な手法で病態生理を追求し、臨床医学の進歩に直接結びつく研究を目指しています。
以下に当科で行っている代表的な臨床研究をご紹介いたします。

利尿薬フロセミドが、がん患者の苦しみを軽減!

西野前教授らは、利尿薬として古くから用いられているフロセミドの吸入により、がんの肺転移などによる呼吸困難を軽減することを発見しました。
写真は、副腎腫瘍肺転移による重篤な呼吸困難を主訴として入院した患者さんの胸部レントゲン写真です。
呼吸苦が強く、食事も摂れず会話も困難でしたが、吸入療法開始後呼吸苦は著明に改善し、食事・読書・会話も可能となりました。
退院され死亡前日まで自宅でご家族と過ごすことができました。
無効例もありますが、非常に有望な治療法です。

 

関連論文

1) Nishino T, Ide T, Sudo T, Sato J. Inhaled furosemide greatly alleviates the sensation of experimentally induced dyspnea. Am J Respir Crit Care Med 2000; 161:1963-7.

2) Sudo T, Hayashi F, Nishino T. Responses of tracheobronchial receptors to inhaled furosemide in anesthetized rats. Am J Respir Crit Care Med 2000; 162:971-5.

3) Nehashi S, Nishino T, Ide T. Inhaled furosemide inhibits behavioral response to airway occlusion in anesthetized cats. Anesthesiology 2001; 95:1234-7.(根橋先生の学位論文です)

4) Minowa Y, Ide T, Nishino T. Effects of inhaled furosemide on CO2 ventilatory responsiveness in humans. Pulm Pharmacol Ther 2002; 15:363-8.(箕輪先生の学位論文です)

5) Shimoyama N, Shimoyama M. Nebulized furosemide as a novel treatment for dyspnea in terminal cancer patients. J Pain Symptom Manage 2002; 23:73-6.

うつぶせ寝で、SIDSが起きやすいのはなぜ?

乳幼児突然死症候群(SIDS)が、うつ伏せ寝で起き易いことが知られていますがその理由は不明です。
近年、睡眠時無呼吸とSIDSとの強い関連性が示されていますので私たちはうつ伏せ寝では、咽頭がより狭くつぶれやすくなり睡眠時無呼吸が発生しやすくなるのではないかと考え、この研究を行いました。
その結果、睡眠中に呼吸異常のない乳児であっても、全身麻酔中のうつ伏せ寝の状態では完全に咽頭が閉塞してしまうことを発見しました。
これは、うつ伏せ寝でSIDSが発生する病態生理を理解する上で極めて有用な発見として、American Journal of Respiratory and Critical Care Medicineに掲載され、その表紙にも採用されました(下の写真)。
まだ、未解決の部分も多く残っていますが、うつ伏せ寝⇒睡眠時無呼吸の発生⇒覚醒反応の抑制⇒SIDSという仮説を支持する研究結果でした
この結果は、その後のSIDS研究の一人者であるGuilleminaultらのSIDS患者での研究データとよく一致するものでした。
この学説は2009年に開催された日本SIDS学会学術総会の特別講演でも発表しました。

関連論文

1) Ishikawa T, Isono S, Aiba, Tanaka A, Nishino T. Prone position increases collapsibility of the passive pharynx in infants and small children. Am J Respir Crit Care Med 2002; 166:760-764.

2) Isono S, Tanaka A, Ishikawa T, Nishino T. Developmental changes in collapsibility of the passive pharynx during infancy. Am J Respir Crit Care Med 2000; 162:832-836.

3) 磯野史朗 小児の気道閉塞性評価:そこから見えてくるもの The Journal of Japan SIDS Research Society 2009; 9: 3-9

気管挿管、こんな顔はこんなん!

気管挿管は、約6%の確率で困難です。
麻酔導入前に気管挿管困難が予測できれば、これに起因する重篤な合併症を予防できます。
多くの施設でマランパチ分類などを用いて予測を試みていますが、予測がはずれることも多いのが現状です。
私たちの先輩麻酔科医は、『患者の顔を注意深く見れば気管挿管が難しいかどうかわかるものだ』と言っていました。
平均顔という最新テクニックを用いて私たちは、この経験を科学的に検証しました。
左は気管挿管のやさしかった16名の女性患者さんの平均顔、右は気管挿管が難しかった16名の女性患者さんの平均顔です。
違いは、アゴの部分にあるようでした。アゴの下の角度S angle (Submandible angle あるいは Suzuki angle)が大きいと気管挿管が困難であることがこの研究からわかりました。
例えば、下の図(いづれも本研究共同研究者)で、左の横顔では気管挿管は容易であろうと予想でき、右の横顔では気管挿管が困難であることが予想されます。
しかし、このS angleが小さな横顔であっても気管挿管が困難であることもあるという事実も明らかとなり、さらなる研究の必要性も示唆されました。

掲載論文
Suzuki N, Isono S, Ishikawa T, Kitamura Y, Takai Y, Nishino T. Submandible angle in nonobese patients with difficult tracheal intubation. Anesthesiology 2007; 106:916-23(鈴木先生の学位論文です)