千葉大学医学部附属病院
麻酔・ペインクリニック・緩和ケア科
千葉大学大学院医学研究院麻酔科学のホームページをご覧頂きありがとうございます。
令和6年4月1日付で、磯野史朗前教授の後任として当講座に着任いたしました長谷川麻衣子と申します。
麻酔は鎮静・鎮痛・筋弛緩の3要素から成りますが、その本質は、侵襲にさらされる生体の保護であると考えられています。麻酔は手術侵襲に対して生体が過剰に反応しないように、あえて生体防御反応を抑制するため、麻酔があるところには必ず蘇生が共存しなければなりません。したがいまして、麻酔科医にとって周術期の患者さんの安全確保が最も重要な課題であり、麻酔科医が全身管理の専門家といわれる所以です。近年、カテーテル室や内視鏡室、MRI室等、手術室の外におきましても麻酔科医による全身管理の要望は増していると実感しております。また、鎮痛はペインクリニック・緩和ケアの分野に生かされ、蘇生は救急・集中治療の分野で活躍する麻酔科医の原点となっています。
近年、手術件数は急増し、麻酔科医不足とその偏在が問題となっております。現状では、十分な人員確保の困難な状況下で、多くの麻酔科医が地域の手術麻酔を担っています。私の使命は、患者さんの安全を担う麻酔科医のやりがいを若手医師や医学部学生へ伝え、多くの麻酔科医を千葉大学から送り続けることに尽きます。麻酔科医が手術室の麻酔で培った経験を、救急・集中治療、ペインクリニック・緩和の領域でも活かし、急性期から慢性期を通して全身管理を担う医師の拠り所となる教室を作りたいと考えております。千葉県の医学・医療の発展のために、大学と地域の緊密な連携がこれまでになく問われている時代です。千葉県に安全な急性期医療を提供するため、全力で取り組む所存です。
当教室が担当している臨床領域は、手術麻酔、痛みの治療(ペインクリニック)、緩和ケアです。また、救急科・集中治療部と連携して、主に術後の全身管理を担っており、救急科専門医、集中治療専門医を目指す医師もおります。さらに手術麻酔のなかでも、心臓血管麻酔・小児麻酔・産科麻酔を専門とする麻酔科医も所属しております。近年では、心移植・肺移植手術の増加も見込まれており、いずれの領域におきましても、最先端の技術・知識を習得するために短期・長期の国内・海外留学を積極的に行ってまいります。
麻酔は呼吸・循環など全身のあらゆる機能に影響を与えるため、細胞レベルから臓器レベルまですべての研究領域を網羅しうる分野です。西野前々教授は現在も助教、大学院生とともに呼吸の研究を継続されています。また、麻酔中の気道確保困難は、最も重大な危機的偶発症の一つですが、磯野前教授がリードしてこられた気道の研究は、安全な全身管理をおこなう上で臨床の現場でも生かされています。いずれも、千葉大学麻酔科がさまざまな困難を乗り越えて継続してきた世界に誇る研究です。さらに、痛みや炎症の発生機序に関する研究は、当教室の主要な研究テーマとなります。炎症は、痛みの慢性化や敗血症、呼吸不全、術後せん妄の発症とも関連しています。当教室では質の高い研究を行うために学内の基礎医学講座と連携をとり、共同研究も積極的に推進してまいります。
全国的に麻酔科医の不足が大きな社会問題となっています。いかなる状況においても、責任をもって患者さんの安全を担う麻酔科専門医を育成することが当教室の最も重要な任務です。そのためには医学部で多くの医学生に麻酔や全身管理の知識・技術を伝え、この領域に関心を持ってもらうことが第一歩です。当教室では臨床実習に力を入れており、教員だけでなく手術の担当麻酔科医も熱心に教育にあたっています。初期研修では静脈ライン確保、マスク換気、気管挿管、循環管理、呼吸管理等を多く経験できるよう、麻酔科医がマンツーマンで指導を行っています。さらに動脈ライン確保、中心静脈ライン留置、脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔等も、教員の指導のもと経験しております。麻酔科専攻医の教育は、千葉大学病院麻酔科専門医研修プログラムとして県内17施設、県外7施設(東京都6、埼玉県1)の専門研修連携施設で研修をおこない、4年間で専門医を取得できる体制を整えております。
専門研修基幹施設
千葉大学医学部付属病院
専門研修指導医数 9名
総手術 件数 |
麻酔管理症例数 |
小児麻酔 |
帝王切開術麻酔 |
心臓血管麻酔 |
胸部外科手術麻酔 |
脳神経外科麻酔 |
11,732 |
6,883 |
243 |
200 |
517 |
382 |
281 |
※2023年度データ
専門研修連携施設(A)
専門研修連携施設(B)
当教室の方針として、多くの患者さんに安全な麻酔を安心して受けていただくことが第一ですが、教室員の幸福度も重要と考えています。現在、麻酔科における女性医師の比率は42%(全国平均)であり、診療科別では第2位となっています(厚生労働省:令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況)。産休・育児休暇で一時的に診療を離れる医師、職場に復帰してから育児と家事と仕事を両立し続ける医師、そして両親の介護をおこなう医師も急増しています。このような医師が麻酔科領域で長く仕事を続けられることが、麻酔科医にとってだけでなく、社会にとっても重要な課題であると考えております。 教室員と試行錯誤を積み重ねながら、麻酔科という専門分野に面白さを見出し、幸せに仕事を続けていけるような教室を目指したいと考えております。
2000年 鹿児島大学医学部医学科卒業
2005年 久留米大学大学院医学研究科修了(医学博士)
2005年 久留米大学分子生命科学研究所遺伝情報研究部門 助手
2006年 スタンフォード大学神経内科学講座 博士研究員
2008年 順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座 助教
2011年 鹿児島大学医学部麻酔蘇生学講座 助教
2012年 鹿児島大学医学部・歯学部附属病院麻酔全身管理センター 講師
2013年 鹿児島大学医学部・歯学部附属病院手術部 講師
2015年 鹿児島大学医学部麻酔蘇生学講座 准教授
2019年 信州大学医学部附属病院手術部 准教授・副部長
2021年 東京大学大学院医学系研究科疼痛・緩和病態医科学講座 特任准教授
2024年 千葉大学大学院医学研究院 麻酔科学研究領域 教授
現在に至る