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家族性LCAT欠損症の治験実施について

千葉大学では家族性LCAT欠損症を対象とした医師主導治験を実施しています。このページでは、この病気について解説し、どのような治験が行われているかを紹介します。

家族性LCAT欠損症とは?

コレステロールは、体のはたらきを維持するために不可欠な成分です。一方、使い切れずに余ったコレステロールは、「善玉コレステロール」と呼ばれるHDLに取り込まれて処理されますが、その際、LCAT(レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ)という酵素が必要です。

家族性LCAT欠損症とは、生まれつき、体の中にこのLCAT酵素を作り出す仕組みが無い、または十分に働くLCATを作り出すことができない病気です。LCAT欠損症の患者さんは、LCATが十分に働かないため、血液中のHDLコレステロールが著しく減少する(現状の診断基準では25 mg/dL未満)とともに、余分なコレステロールなどの脂質が目や腎臓などに蓄積してしまいます。その結果、眼の角膜が白濁する角膜混濁や尿に蛋白が多く排泄される蛋白尿という腎臓の機能障害、赤血球が壊れやすいため、めまいなどの溶血性貧血や黄疸などの障害を起こします。

特に、日常生活や社会生活に差しさわりのある角膜混濁腎臓の機能障害は、LCAT欠損症患者さんの生活に影響する重要な合併症です。現在、低脂肪食、低蛋白食の食事療法が行われていますが、根本的で有効な手立てはみつかっていません。

どんな症状が起こるのですか?

LCATがない、または働かない状態が続くと、歳をとると共に次のような症状が現れてきます。

角膜の混濁目の白濁.png

角膜とは、黒目を覆っている透明の膜ですが、LCATがないとこの膜にコレステロールや脂質が蓄積し、次のような症状が現れます。

1. 脂質の蓄積により角膜が混濁するため、小さな頃から目が濁ります。
2. 徐々に目のかすみ、まぶしさ、夜にものが見えづらくなります。車の運転にも差し障りがおこります。
3. 視覚障害のため、日常生活に影響があらわれます。

改善方法として角膜移植という手段がありますが、根本的な治療法ではないため、移植した角膜が再び濁ることは避けられません。

 

腎臓の機能障害

1. 腎臓にコレステロールなどの脂質が溜まってきます。
2. 脂質の蓄積が進むと、尿にタンパク質が多く排出されるといった、腎臓のはたらきの低下がおこります。弱った腎臓.png
3. さらに悪化すると腎臓の働きが失われてしまい、腎機能の回復が難しい場合は、人工透析や腎移植が必要となります。

人工透析は体の外で、あなたの血液をきれいにする治療法です。病院にて毎週・数時間かけて行う治療法であり、生涯にわたって行わなければなりません。

腎臓の移植も有効な手段ですが、移植した腎臓も再び脂質がたまり再び悪化する危険があります。

溶血による貧血溶血状態4.png

赤血球は体の隅々まで酸素を運ぶ役割を持っています。赤血球が十分な機能を発揮するために、コレステロールは重要な役割を果たしています。しかし、LCATが機能しないと、赤血球の膜成分の脂質のバランスがくずれてしまい、膜が破れて赤血球が壊れてしまう「溶血」という状態になりやすくなります。その結果、赤血球が不足し貧血がおこります。

赤血球が壊れると、貧血を起こすだけでなく赤血球の中にあるヘモグロビンが放出され、腎臓への障害の原因にもなります。

 

 

千葉大学では家族性LCAT欠損症を対象とした医師主導治験を実施しています。

千葉大学では、患者さんの脂肪組織を培養して得られたご自身の脂肪細胞をLCAT酵素を分泌する細胞に作り変え、患者さんに投与することでLCATを持続的に体内で作り出し、症状を長期に改善できるような治療法の開発を進めています。

治療法スキーム230907.png

図. 脂肪細胞を用いた家族性LCAT欠損症の治療法

現在、再生医療等安全性確保法下での第一種再生医療臨床研究での成果(Aso M, et al. Heliyon. 2022; 8: e11271.をうけて、LCAT欠損症の患者さんを対象とした医師主導治験を実施しています。詳細についてお聞きになりたい場合は、以下の連絡先までご連絡ください。

連絡先:千葉大学医学部附属病院未来開拓センター 特任准教授 黒田正幸

E-mail:kurodam(@)faculty.chiba-u.jp