千葉大学医学部附属病院 検査部
Division of Laboratory Medicine, Chiba University Hospital
 
遺伝子検査室

 大昔から、なぜヒトはヒトに、イヌはイヌに、オタマジャクシはカエルになれるのか?なぜ親と子は似ているのか?といった疑問がありました。
 メンデル(1822-1884年)はエンドウ豆の交配実験を行い、それらの種子の形状や背の高さなどいくつかの“表現型”調べることにより遺伝学の基礎をつくりました。その“表現型”を次世代に伝えるための担体が、細胞中の“染色体”上にある“遺伝子”であることを、モーガン(1866-1945年)らが、ショウジョウバエの交雑実験によって明らかにしました。
 ヒトは約60兆個の細胞からできており、その一つ一つの細胞にはそれぞれ、基本的に、46本の“染色体”が含まれ、その“染色体”上には2~3万個の“遺伝子”があります。“遺伝子”の中身がA、G、C、Tの4つの塩基の組合せから構成される2重らせん構造の“DNA(デオキシリボ核酸)”であることをワトソン(1928年-)とクリック(1916-2004年)が明らかにしました。
 その後、特定領域のDNAを増幅する技術(PCR反応など)や塩基配列を読み取る技術が急速に進歩し、それまで研究実験の為の解析手法であったものが、臨床検査にも応用が可能となりました。

 

遺伝子関連検査の流れ

遺伝子関連検査は以下の3つステップからなります。

  1. 核酸抽出
    • 血液、体液、便、喀痰、組織など、採取した材料から核酸を取り出します。
  2. 核酸増幅
    • 解析したい領域の増幅(PCR法など)を行います。
  3. 増幅産物の検出
    • 増幅産物を電気泳動や増幅産物に標識された蛍光を測定することにより検出し、目的遺伝子の有無や量あるいは塩基配列を測定します。

 

遺伝子検査の分類

遺伝子関連検査は検査対象によって3つに分類されます。

病原体遺伝子検査

ヒトや動物、細菌あるいはウイルスのような微生物など、生物種によってそれぞれに特徴的な塩基配列をもっています。感染症にかかってしまった場合、血液、体液、便、喀痰など採取した材料から特定の病原体種に特徴的な塩基配列が検出できれば病原体を同定できます。また、その遺伝子の量を調べることにより、感染症の程度や治療効果を観測することができます。

体細胞遺伝子検査

癌細胞や白血病細胞の遺伝子の塩基配列は正常細胞のそれと異なる部分(変異)をもちます。癌や白血病はその性質により多くの型に分類され、それぞれに治療方針が異なります。その型に特徴的な遺伝子変異がみられるものもあり、その変異を見つけることによって、治療方針を決めることができます。また、その変異をもつ細胞の量を測定することによって、治療効果を観測することができます。

生殖細胞系列遺伝子検査(遺伝学的検査)

近年、分子生物学に基づく遺伝子工学技術の発達により、疾患や体質の原因となる遺伝子が見つかってきており、その遺伝子を調べることが可能となってきました。しかしながら、この検査結果は疾患や体質の遺伝にかかわるため、家族や社会との関係に対する考慮、倫理的な考慮が必要となります。現在では、臨床遺伝学に習熟した専門医や遺伝カウンセラーと十分なカウンセリング(附属病院遺伝子診療部へ)をおこなった後に検査が実施されています。

 

当遺伝子検査室で行っている検査

当検査室では次の遺伝子関連検査を実施しています。

病原体遺伝子検査 B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIV、結核菌群
体細胞遺伝子検査 白血病関連遺伝子、RAS遺伝子変異、マイクロサテライト不安定性検査
生殖細胞系列遺伝子検査
(遺伝学的検査)
UGT1A1遺伝子多型、脊髄小脳変性症、ハンチントン病(HTT)、家族性大腸腺腫症(APC)、家族性地中海熱(MEFV)、ウィルソン病(ATP7B)、リンチ症候群(MLH1MSH2MSH6