子宮内膜異型増殖症とは、子宮内膜という組織が異常に分厚く増殖し、子宮内膜の細胞異型が認められる疾患で、子宮体がんの前がん状態と考えられています。子宮内膜異型増殖症の3割程度は子宮体がんを発症するといわれています。
子宮体がんは、子宮体部に発生するがんで、そのほとんどはホルモンの作用を受けて月経を起こす子宮内膜にがん細胞が発生するため、子宮内膜がんとも呼ばれます。
症状としては月経過多、月経痛、不正出血、月経不順が挙げられます。子宮内膜異型増殖症や子宮体がんは、エストロゲンという女性ホルモンが過剰に働くことが一因で発症します。肥満や月経不順の方は、エストロゲンの過剰分泌や刺激を引き起こすため、発症のリスクが高いと考えられています。
子宮内膜異型増殖症・子宮体がんの診断にあたっては、以下の検査を実施します。
子宮内膜異型増殖症は、がん化の頻度が高いことや、摘出した場合にすでに4割ほどがんが併存していることがあるため、体がんに準じた治療が行われます。妊娠を希望される場合は、メドロキシプロゲステロン(MPA)を使った温存治療が行われています。
一方、子宮体がんの標準治療は手術による摘出です。ただし、妊娠を強く希望されている場合には、①高分化型の類内膜癌という比較的予後のよい組織型のがんで、②がん細胞が子宮にとどまっていて転移の疑いがなく、③子宮内膜の下の筋層にまで及んでいない、という場合に限り、メドロキシプロゲステロン(MPA)を使った妊孕性温存治療が行われています。
メドロキシプロゲステロン(MPA)は、乳がんと子宮体がんに適応のある薬剤です。子宮体がんにおいては、1日400mg~600mgを2~3回に分けて内服します。
本治験では、36週間、1日600mgを内服していただきます。
メドロキシプロゲステロン(MPA)を用いた治療は、子宮の温存(妊孕性温存)を希望する患者さんに対し、ガイドラインでも許容されている唯一の治療法ですが、一旦がんがなくなった後に再発したり、再発を抑える期間が十分でないという報告もあります。
子宮温存療法の多くの報告をまとめた結果によると、ホルモン治療を行った子宮内膜異型増殖症患者さんでは90%ほど一旦病変が消失したものの、30%近くが再発しています。ホルモン治療を行った子宮体がん患者さんでは70-80%ほど一旦病変が消失したものの、40-50%近くが再発しています。そのため、子宮温存療法によって長期間子宮を残せた患者さんは45%に過ぎません。
また、わが国で行われた臨床試験では、22人の子宮体がん患者さんが参加されてメドロキシプロゲステロン(MPA)を用いた治療を受けられましたが、治療開始から3年後には3分の2の患者さんが再発されて手術を受けられたという報告があります。このことから、現在の子宮温存療法の治療成績は、十分ではないと考えられています。
この治験で使用する薬(治験薬)は、「メトホルミン」といいます。メトホルミンは、50年以上前から世界中で広く使われている糖尿病の治療薬です。食事や運動療法後、最初に使われる薬剤で、糖尿病の予防にも使われています。近年、メトホルミンを服用している糖尿病患者さんは、服用していない人に比較してがんの発生が少ないことが報告されています。
また、メトホルミンは、多嚢胞(たのうほう)性卵巣症候群(PCOS)の患者さんの排卵誘発剤として、すでに不妊治療の分野で使用され効果が報告されています。この治験の結果で、メトホルミンの子宮体がんおよび子宮内膜異型増殖症に対する効果が確認できれば、今後メトホルミンを子宮温存療法の新たな治療法として使用できるようになる可能性があります。