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糖尿病・代謝・老年病分野

糖尿病研究室

研究内容紹介

近年、糖尿病患者数は増加の一途をたどっていますが、根本的な治療法はいまだ存在しません。基礎研究によって病態機序の解明、治療法の開発と同時に、臨床研究によって患者の病態を解析し、どのような治療をしていくか、この基礎と臨床の両輪が協調して進んでいくことが、糖尿病の診療に非常に重要です。
目の前の患者の血糖値が悪いことを、患者だけのせいにせずに、糖尿病患者が背負う重荷を少しでも軽くしてあげたい。糖尿病患者には病気を気にせずに、より良い人生を送っていただきたい。
糖尿病の研究により少しでもこの理想に近づき、患者の幸福を追求し、より良い糖尿病診療の実現を考えています。

主な研究テーマ

  • 糖尿病の病態解明および治療の検討
  • 妊娠糖尿病の病態解明および分娩後の耐糖能障害予防

研究活動

石川 耕
Kou Ishikawa, M.D., Ph.D.
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Lab
医学部本館2階 糖尿病研究室(内線5258)

基礎研究

【膵β細胞増殖機序の解明】

糖尿病はインスリン分泌を担う膵β細胞の減少あるいは廃絶により、血糖値が上昇する疾患である。従って膵β細胞の増殖、減少する機序を解明することは糖尿病治療を考える上で極めて重要である。
我々はインスリン受容体変異マウスを用いた研究で、全身のインスリン抵抗性を模したヘテロ接合体のマウスは膵β細胞の増殖により、糖代謝異常を生じないことを報告した (Ogino J. et al. J Endocrinol. 2006)。このマウスに脂肪食を負荷すると、さらに膵β細胞が増殖した(図1)。この機序としてインスリンシグナルの減弱により活性酸素を消去するMnSODの発現が増加し、酸化ストレスが減少、これにより膵β細胞アポトーシスが減少していたことを報告した(図2) (Tachibana K. et al. Horm Metab Res 2015)。

図1 膵島面積の比較

図2 MnSODの発現量の比較

【Gap結合とインスリン分泌調節】

インクレチンホルモンの一種であるGLP-1は腸管から分泌され、膵β細胞のGLP-1受容体を刺激し、インスリンを分泌させることにより、血糖値を下げる。GLP-1受容体作動薬は糖尿病の治療薬として使われている。この薬剤は単独で投与された場合は、血糖値が高い時のみインスリンを分泌させるが、低い時はインスリン分泌を促進しない。低血糖を起こしにくい血糖降下薬として、優れた特性を持っているが、その機序については十分に解明されていない。
我々は膵β細胞間のイオンや小分子を相互に通過させるギャップ結合に注目して、GLP-1受容体作動薬がギャップ結合を介して、インスリン分泌の調節を行っていることを解明する研究を行っている。

【褐色脂肪細胞の新規活性化因子の探索】

褐色脂肪細胞は非ふるえ熱産生の臓器であり、熱産生の際に脂肪酸あるいはブドウ糖をエネルギー基質として利用することが知られている。この褐色脂肪細胞を活性化あるいは増殖させることにより、ブドウ糖の消費あるいは体重減量を認めることから、糖尿病、肥満症の治療手段の可能性として近年注目されている。我々は新規の褐色脂肪細胞活性化因子の探索あるいは、白色脂肪細胞の褐色化(ベージュ細胞)する新規因子を探索し、その作用機序の解明を目的に研究している。

臨床研究

【妊娠糖尿病の疫学および介入研究】

2010年に国際的な妊娠糖尿病診断基準が改定されたことに伴い、妊娠糖尿病患者数が増加した。妊娠糖尿病は児への影響だけでなく、分娩後の母体の耐糖能障害と強く関係している。妊娠中の食事療法、運動療法により周産期合併症を減らすことができるか、研究中である。さらに分娩後母体の耐糖能障害発症に関わる因子を探索している。耐糖能障害発症のリスクが高い群を早期にフォローすることにより、長期的に糖尿病合併症を減らすことできると予想されることから有意義な研究である。

【糖尿病と腸内細菌叢の観察研究】

近年、動物における腸内細菌叢の多様な役割が明らかになりつつあり、非常に注目されている。特に炎症、肥満、糖尿病と関係している可能性が示唆されている。そこで、当院の糖尿病患者における腸内細菌叢の実態を明らかにすることを目的に、準備を開始している。

平成27年度 糖尿病・代謝・内分泌内科 連携病院リスト

糖尿病患者会「いのはな友の会」


代謝研究室

診療のモットー

糖尿病・高脂血症など生活習慣病に関する豊富な診療経験をベースに、"からだと心"に配慮した高齢者医療の実践を心がけています。 これまでのエビデンスに基づいた糖尿病治療、高脂血症治療、高齢者医療を日々実践するとともに、常に新しいエビデンスを自分達で確立すべく臨床研究を並行して行っています。

主な研究テーマ

生活習慣病にともなう血管障害の成因解明と新しい分子治療法の開発

A)動脈硬化症

脳梗塞、心筋梗塞、下肢の壊疽など動脈硬化によってもたらされる臓器障害は、患者さんの生活の質を大きく低下させる原因となるとともに生命予後に大きく関わります。しかし、動脈硬化症に対する決定的な治療法はまだ確立されていません。私達は、遺伝子改変モデル動物や培養細胞を用いた分子生物学的解析を通じて、新しい治療法の開発を目指しています。得意とする分野は、細胞増殖因子や新しい血管作動性因子のシグナル伝達、骨髄由来幹細胞などです。

B)慢性腎臓病、糖尿病性腎症、心腎連関

慢性腎臓病は末期腎不全の危険因子としてだけではなく、動脈硬化を基盤とした心血管病の危険因子としても近年重要視されています(心腎連関)。慢性腎臓病の主要な原因である糖尿病性腎症は、近年、糖尿病患者数の著増に伴い、わが国の新規透析導入患者の原因としても最も多い疾患になっています。しかしながら慢性腎臓病、糖尿病性腎症さらに心腎連関の分子メカニズムに関しては十分には明らかとなっていません。私達は腎糸球体疾患の分子メカニズムを遺伝子レベルで研究するとともに、慢性腎臓病、糖尿病性腎症、心腎連関の重症度や予後を予測する新しい尿中マーカーの探索や分子標的療法の開発に取り組んでいます。 国内はもとよりスウェーデン、カナダなど海外の研究室とも盛んに研究交流を行っています。

早老症の病態解明と治療法の開発

ウエルナー症候群に代表される早老症(通常に比べて若いうちから老化徴候が現れる疾患群)について世界的にも有数の診療経験を誇り、数多くの研究成果を内外へ発信してきました。今後も遺伝子診断、合併症の予防と早期発見、新しい治療法の開発などを通じて、病気に悩まれている患者さんの生活向上と老化のメカニズム解明にも結び付けたいと考えています。

肥満及び脂肪細胞による遺伝子療法

作成中

研究活動

竹本 稔
Minoru Takemoto MD. Ph.D. Chiba University
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E-mail
minoru.takemoto(ここにアットマーク)faculty.chiba-u.jp
Office
医学部本館2階 内分泌代謝・血液・老年内科学医局
043-226-2092(ext. 5253)
Lab
医学部本館2階 血液研究室
043-226-2094(ext. 5257)

Brief overview

世界的にみても糖尿病患者数の増加は著しく、今後もその合併症によって生命予後や生活の質が左右される人々が増加することが予想される。
我々はこの糖尿病合併症の発症機序の解明や新しい治療法の開発を目指した研究を行っている。合併症の中でも特に糖尿病大血管障害の原因である動脈硬化症や細小血管障害の一つである腎症に着目しており、今回は腎症の発症機序に対する我々のアプローチを紹介する。

近年、稀な先天性ネフローゼ症候群の原因遺伝子が明らかなることにより、腎糸球体の血液ろ過機構が分子レベルで明らかとなってきている。その中でも特にポドサイトの糸球体における役割が着目されてきている。

糸球体特異的遺伝子の同定

我々はマウスから糸球体を98%の純度で単離する新しい方法を考案し、この方法を用いてマウス特異的な遺伝子ライブラリーやcDNAマイクロアレーを作成した。そしてこれまで、このライブラリーやマイクロアレーを用いておよそ300種類の糸球体やポドサイト特異的な遺伝子を同定してきた。

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糸球体特異的遺伝子の機能解析

我々が同定した遺伝子の幾つかに関してはその機能解析を目的にノックアウトマウスの作成が行われている。その中の遺伝子の一つには糖尿病腎症に認めれるような糸球体基底膜の肥厚やメサンギウム基質の増加、ポドサイトの足突起の癒合等が認められており(下右図)、この遺伝子の機能解析を進めることにより、糖尿病腎症の発症機序が明らかとなることが期待される。

今後の展望

現在我々は、新しい糸球体/ポドサイト特異的遺伝子の機能解析のみならず、ジェノミクス、プロテオミックス、エピジェネティクス等の技術を用いた糖尿病性腎症の機序や新しい分子マーカー、治療法の開発を目指している。

参考文献

この研究に関する総説

  • 糖尿病 2010 in press
  • Annual Review 腎臓 2008
  • Nephron Exp Nephrol. 2007;106:e32-6
  • 医学の歩み 222:145.2007

マウス糸球体採取方法

  • Am J Pathol. 2002 ;161:799-805.
  • DYNALougue:01:2003

糸球体特異的遺伝子の同定

  • J Am Soc Nephrol. 2008 ;19:260-8.
  • Kidney int: 2007:71: 889-900.
  • EMBO J. 2006;25:1160-74.

その他にこの研究に関連した論文

  • Dev Biol. 2009;334:1-9.
  • Kidney Int. 2008;73:697-704.
  • J Am Soc Nephrol.2007;18:689-97.
徳山 宏丈
Hirotake Tokuyama MD. Ph.D. Chiba University
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E-mail
minoru.takemoto(ここにアットマーク)faculty.chiba-u.jp
Office
医学部本館2階 内分泌代謝・血液・老年内科学医局
043-226-2092(ext. 5253)
Lab
医学部本館2階 血液研究室
043-226-2094(ext. 5257)
なぜ太るのか?どうやったら痩せられるのか?そんな素朴な疑問から、肥満や糖尿病に興味をもって研究を行っています。

肥満外科手術による糖尿病改善効果

近年、日本でも高度肥満に対する外科手術が増加してきています。肥満外科手術では、体重減少効果だけでなく、それよりも先行して糖尿病改善効果が得られることが知られています。そこで、インスリンやインクレチン(GLP-1・GIP)分泌などの変化を検討し、そのメカニズムを明らかにすべく研究を行っています。

ポリフェノールによる代謝改善効果

ポリフェノールの一種であるグラボノイドは、マウスにおいて血糖、内臓脂肪蓄積、そして体重増加などの改善効果が報告されています。また、我々の行ったグラボノイドを内服したヒトでの検討では、炎症マーカーや体脂肪量の減少傾向が認められました。それらを踏まえ、グラボノイドの肥満や糖尿病など生活習慣病治療薬としての可能性を、臨床研究と基礎研究を通じて行っています。

肥満患者さんの心理的背景を考慮した治療アプローチの検討

肥満患者さんの減量において、通常の食事・運動指導だけでは効果が上がらず、治療に難航することがしばしばあります。そのような方の中には心理的問題(うつ病・むちゃ食い障害)を合併する例が少なくありません。そこで、そのような患者さんの認知と行動を変えること(認知行動療法)で減量とリバウンド防止につなげていこうという試みを開始しています。

fMRIを用いた高度肥満患者さんの脳機能についての検討

摂食障害患者では食べ物を見た際の脳内反応が正常者とは異なる可能性があり、研究が進んでいます。むちゃ食い障害を合併する肥満症患者さんも、食べ物を見た際の反応やうまみ成分の感じ方が正常者とは異なる可能性があり、それをfMRI(functional MRI)で解明することによって肥満治療のアプローチを模索していこうという研究を行うべく準備を進めています。

DPP-4阻害剤による慢性炎症抑制の可能性についての検討

DPP-4は活性化されたヘルパーTリンパ球細胞(Th細胞)上に発現するCD26と同一分子であり、マクロファージ(Mφ)からTh細胞が抗原提示を受け活性化する際の補助刺激分子として知られています。活性化されたTh細胞はIFN-γやTNF-αを分泌し今度はMφをさらに活性化させ炎症を増幅します。したがって、2型糖尿病治療薬DPP-4阻害剤は、MφとTh細胞によるこの炎症cycleを抑制し、慢性的な炎症の抑制を通じてインスリン抵抗性の改善や動脈硬化の予防につながる可能性があります。現在、患者さんや健常人の血清や単核球を用いて研究を行っています。