病態に関する説明用紙
鼠径ヘルニア・陰嚢水腫
1.症状
鼠径ヘルニアの症状は、鼠径部(下肢の付け根のやや頭側)から陰嚢(男児)・陰唇(女児)のあたりが膨隆します。泣いたり、力んだりすることにより腹圧が上昇し、更に膨隆します。内容が腸管であれば、触るとグジュグジュした感触があります。年長児では、鼠径部の違和感や痛みを訴えることがあります。
陰嚢水腫では陰嚢が腫大しますが、明らかな痛み等の症状を呈することは稀です。触ると硬い水風船のような感触があります。少し青味がかった色調に見えることがあります。
2.鼠径ヘルニア・陰嚢水腫の病態
下図のように、腹壁の内側を裏打ちしている腹膜は、胎児期に鼠径部において腹膜鞘状突起を形成し、下方に落ち込むような形状になります。しかし正常では、腹膜鞘状突起は妊娠後期には自然に閉鎖します。鼠径ヘルニアでは、生まれた後も腹膜鞘状突起が閉じずに大きく開存しているため、内腔に腸管などの臓器が脱出してしまい、鼠径部が膨隆するという症状を呈します。陰嚢水腫の腹膜鞘状突起は、根元のみが不完全に閉鎖するため、腹腔内の水分(腹水)が内部に貯留し、陰嚢が腫大したように見えます(女児の水腫をヌック水腫といいます)。
鼠径ヘルニアの頻度は約5%で、珍しい病気ではありません。特に、2500g以下で生まれた子供には10〜20%に発症します。
正常 鼠径ヘルニア 陰嚢水腫
3.鼠径ヘルニア嵌頓について
鼠径ヘルニアを有するお子さんは、嵌頓に注意する必要があります。嵌頓とは、脱出した腸管が腹腔内に戻らなくなった状態のことです。放置した場合、腸管の血流が阻害され、腸管の壊死・穿孔により致死的な状況になることがあります。嵌頓は1歳以下の乳幼児に多く見られます。嵌頓をきたすと、突然不機嫌になったり、鼠径部に痛みが生じたり、膨隆部がいつもより硬くなったりします。また、時間の経過と共に嘔吐することがあります。御家庭で嵌頓が疑われた場合、抱っこやおむつ交換、哺乳などで泣き止むのを待ち、4〜5時間様子を見てください。それでも不機嫌が続き、鼠径部の膨隆が硬いままの場合、当科にご連絡下さい【043-222-7171(代表)】。医師が腸管の還納を試みますが、戻らない場合、緊急手術となります。
手術説明用紙
鼠径ヘルニア・陰嚢水腫
1.根治手術の必要性について
鼠径ヘルニア 自然治癒は非常に稀です。嵌頓の危険性があるため、原則として手術が必要です。
陰嚢水腫 1歳前に発症した場合、1歳までに約90%が自然治癒します。1歳を過ぎても症状が持続する方や1歳以降に発症した方では、自然治癒の可能性は低くなります。
2.手術方法について
傷は、下腹部の皺に一致して左右それぞれ2〜3cm程度が必要です。まず、ヘルニア嚢(開存した腹膜鞘状突起のことです)を引き出し、内部の脱出臓器を腹腔内に還納します。次にヘルニア嚢を頭側でしばり、腹腔との交通を遮断します。創部は吸収糸(溶ける糸)で内側を縫いますので、抜糸の必要はありません。手術時間は大抵1時間以内です。
稀に腹膜鞘状突起以外を経由したヘルニアであることがあり、その場合、術中の判断で術式変更となります。
3.期待される結果
鼠径ヘルニア・陰嚢水腫共に、膨隆しないようになります。
4.可能性のある合併症
出血 術中及び術後に出血する場合があります。術後出血は圧迫で止まることがほとんどです。
創感染 皮下に感染した場合、術後1週頃に発赤・腫脹の後、膿が出ることがあります。消毒することで治癒しますが、治癒後の外観が悪くなります。
縫合糸膿瘍 体内に残った糸への感染です。術後かなり時間が経過してから発症することがあります。創部から膿が出た時に、一緒に糸が出れば治癒します。
腫脹 創部周辺の腫脹が強く、また長期間に及ぶ場合があります。青あざを伴ったような状態となることもあります。これらに伴い、創部の疼痛が長期間持続する場合があります。
対側出現 片側のヘルニアを手術した後に、反対側のヘルニアが出てしまうことがあります(約5〜10%)。この場合、対側も手術が必要です。
再発 頻度は少ないですが(2〜3/1000)、確実にヘルニア嚢をしばっても、その横から新たに腹膜が押し出されて、ヘルニアが再発することがあります。
精巣挙上 術後のひきつれにより、精巣が挙上してしまうことがあり、後に陰嚢内に固定する手術が必要となることが稀にあります。
損傷 手術操作において、周辺臓器を傷付ける可能性があります。男子の場合、精子を運ぶ精管や精巣への血管を傷害してしまう可能性があります。その場合、長期的に精巣の萎縮を来たす可能性があります。精管を損傷した場合、吻合し、機能の温存に努めます。女子の場合、ヘルニア嚢近辺には卵巣・卵管が存在し、それらを損傷してしまう可能性があります。また、膀胱壁を損傷してしまう可能性があります。これらの損傷に対してはできる限りの修復を行います。
その他 予期することの困難な、極めて稀な合併症が生じる可能性があります。
5.当処置を受けない場合に予測される病状の推移
鼠径ヘルニア・陰嚢水腫による症状が継続します。
入院・手術・退院後の予定
鼠径ヘルニア・陰嚢水腫
当科の手術日は水・金曜日です。手術前日に入院、翌日に退院していただきます。
@ 入院1日目 (火or木)
入院当日は、水分、食事は自由に摂れます。
当科で手術を担当する医師より手術に関する説明があります。
麻酔科医師により麻酔に関する説明があります。この時に手術当日の飲食の指示があります。
A 入院2日目:手術 (水or金)
順番に手術室に入ります(手術室に行く時間は、前日におおよそ決まっています)。
帰室後1〜2時間は泣き叫ぶことがありますが、痛みのためではないので心配は要りません。手術中に大きな合併症がなければ帰室後2時間より水分が開始となります。水分を飲んで30分様子を見て、嘔吐、吐き気がなければ食事を摂っても大丈夫です(手術の後なのでいきなり沢山食べさせないで下さい)。
必要に応じ痛み止めの座薬を使います(痛みは通常、当日のみで、翌日まで痛がり座薬を必要とすることは稀です)。
B 入院3日目:退院 (木or土)
朝回診で傷や全身の状態を診察します。問題がなければ退院となります。
会計箋をご用意できる時間がお約束できないため、次回の外来受診時に会計をお願い致します。当日会計をご希望の方は、事前にお伝えください(土日は会計業務ができません)。
C 退院後
退院後の外来受診日は、水曜日に手術を受けた場合は次週の火曜日、金曜日の場合は次週の木曜日となります。経過が良好であれば、その後の外来受診の必要はありません。
次回受診まで、入浴・シャワーは出来ません。手術創の消毒は必要ありません。手術創の上に張ってある白い絆創膏が、尿・便などで多少汚れても問題ありません。傷の上は、水絆創膏でバイ菌が入らないようにコーティングしてあるので、絆創膏が剥れても大丈夫です。激しい運動、傷をぶつける、擦ることは、出来るだけ避けてください。鉄棒など傷を擦りつける運動だけは術後1ヶ月は止めてください。ご心配なことがあれば電話にて指示を受けてください。