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千葉大学小児外科の高度先進医療について

当科では、神経芽腫の悪性度診断にRNA診断を行っております。

1. 目的
 神経芽腫の悪性度は、お子さんによってまちまちで、病気の広がりや顕微鏡による観察だけでは、十分には分かりません。近年では癌細胞の遺伝子発現を解析することによって、その悪性度をかなり正確に知ることができます。そこで、悪性度に応じて、抗癌剤の投与をやめたり、また逆に増量するなど、必要にして十分な治療が行えるようになってきました。これらを遺伝子診断と言いますが、この中には、お子さんの治療を行っていく上で必要なものと、現時点では研究段階のものがあります。お子さんにとって最も適切な治療を行っていくために、さらには将来、神経芽腫の研究がさらに発展するために遺伝子解析を行っています。遺伝子解析は、千葉大学医学部小児外科学教室と、共同研究施設である千葉県がんセンター生化学研究部において行われます。

2. 遺伝子検査の内容
 私たちは、神経芽腫が発生する仕組み、悪性度を増す仕組み、転移を起こす仕組み、抗癌剤に耐性になる仕組みなどを研究していきます。このために、癌細胞の遺伝子とその産物(たんぱく質)を解析します。遺伝子とは抽象的な言葉で、細胞の中に存在する DNA (デオキシリボ核酸)と呼ばれる化学物質に分散して書き込まれた生命の設計図です。この設計図は RNA (リボ核酸)と呼ばれる化学物質に読み取られ、これをもとにたんぱく質が作られます。通常、癌細胞の遺伝子とその産物を解析すると、正常細胞では見られない現象が起きています。この現象が、癌細胞の発生や悪性度に関与します。一般的に、 DNA の中のある特定の部分が欠けたり、突然変異を起こしたり、他の DNA との間で組み替えを起こしたり、 DNA の数が増えることがあります。また、 DNA から読み取られる特定の RNA が異常に増えていたり、また、減っていたりします。特定の RNA の増減は、その RNA によって作られるたんぱく質の増減に強く影響します。通常、神経芽腫のお子さんの正常細胞には異常は起こっていませんので、神経芽腫は「遺伝性腫瘍」とは理解されていません。
 具体的には、 N-myc (エヌ・ミック)と呼ばれる神経分化を抑制する遺伝子が細胞の中で増えていることがあります。また、第一番染色体短腕の欠失が起きていることがあります。このような場合、腫瘍の悪性度が高く、治療を強化する必要があります。一方、TrkA(トラック・エー), src (サーク)と呼ばれる神経分化に働く遺伝子の RNA が多量に作られていることがあります。このような場合、腫瘍の悪性度は低く、治療が軽減できる可能性があります。上記以外に神経芽腫の分化に関与していると考えられているものとしてTrkB、BDNF、ShcA、ShcB、ShcCがあります。またプログラム細胞死(がん細胞の自殺)に関与していると考えられている遺伝子としてcaspase(カスパーゼ)などがあります。これらの遺伝子の発現を解析することによって、神経芽腫の治療成績とどのように関わっているかを解明していくつもりです。また、細胞の中の DNA の量(DNA Ploidy と呼ばれます)を解析すると、DNA の量が正常であると治療成績が悪く、DNA の量が1.5倍程度に増加していると治療成績が良いことが知られています。

 将来的には、これら以外にも貴重な情報をもたらす遺伝子検査が開発されるはずです。私たちは、その研究のためにも試料を使用したいと思います。また、未使用の試料は厳重に保存したいと考えています。研究には、正常と異常の比較という観点から、正常細胞も必要になります。しかし、遺伝子解析する目的は、腫瘍の中で起きている異常を調べることで、正常細胞はあくまで比較、参考のためとなります。そこで、手術で摘出する癌の組織の一部とともに、血液を5ccほど頂きたいと思います。これらの試料は、千葉県がんセンター生化学研究部と共に検査を行いますが、その際、お子さまの名前はコード番号により匿名化されますので、お子さんのプライバシーは保護されます。正常細胞(血液)からは個人のすべての遺伝情報を得ることが理論的には可能ですが、神経芽腫の特性を調べる目的以外には遺伝子解析は行われません。


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