いのはなハーモニー46号(2016年7月) 掲載(PDF形式 1,646KB)
患者さんに優しい股関節手術台と手術方法を発明
変形性股関節症や関節リウマチの患者さんが痛みなく歩けるように、産学共同研究で股関節の手術台を開発しました。
股関節は、人の体の中で一番大きな関節であり、歩く上で大きな役割を果たします。人にとって歩くということは生きていく上でとても大切です。変形性股関節症や関節リウマチ、大腿骨頭壊死症などにより股関節を痛めると、思うように歩けなくなり、それまで普通にできた日常生活が送れなくなり、生活の質(QOL)が損なわれてしまいます。変形した股関節は、インプラントに置き換える手術(人工股関節全置換術)を行うと、痛みがとれて再び歩けるようになります。そのため、患者さんの満足度がとても高い手術です。
人工股関節全置換術を行うときには、前・後ろ・横のいずれかの方向から股関節にメスを入れます。股関節のまわりの筋肉や神経の境目は前方にあるため、前方からメスを入れると、重要な組織をほとんど傷つけることがありません。また、仰向けの自然な寝かたで麻酔管理ができるので患者さんにとって最も負担が少ない手術方法といえます。当院では、この仰臥位前方法を2012年から導入し、これまでに200例以上の手術を行ってきました。術後の痛みが軽く、効果的なリハビリテーションにより、早い回復が期待できます。快適な入院生活を送れるように、術後数日から入浴することもできます。
前方からの手術は難易度が高いため、しっかりと技術を獲得した医師でなければ簡単には行うことができません。そこで、当院では、仰臥位前方法による人工股関節全置換術に適したけん引手術台を産学共同研究で開発しました。このけん引手術台により、手術をより安全に行うことができ、手術時間の短縮や手術中の出血の減少につながります。当院では、従来は1日1件の手術件数でしたが、現在は1日3件へ増やせるようになり、手術を待ち望んでいる、より多くの患者さんに医療を提供しています。
千葉大学病院は、サージカルアライアンス株式会社と産学共同研究で「~As You Walk~LECURE®(アズ・ユー・ウォーク・ルキュア)」という携帯型下肢けん引手術台を開発しました。LECURE®の開発では、特許や商標登録などの知的財産を創出。医療機器製造販売届も完了し、今後数年で全国の医療機関へ普及させていく予定です。LECURE®を活用した新しい手術方法を普及させていくためには、教育プログラムの充実も必要です。「人に優しく」をコンセプトに、人工股関節全置換術を受ける患者さんが一人でも多く救われるように、これからも治療法の改善を進めていきます。