眼瞼下垂症
①眼瞼下垂症とは
まぶたを持ち上げる筋肉を眼瞼挙筋といいます。この眼瞼挙筋腱膜が瞼板からはずれたり、もしくは伸びてしまって、力が伝わりにくくなった状態を腱膜性眼瞼下垂症といいます。初期は(額にしわを寄せて)眉をもちあげるなどしてまぶたが持ち上がります(代償期)が、進行すると視野をさえぎるように(非代償期)なってきます。
また、加齢によって腱膜が弱くなり、眼瞼挙筋の力が伝わりにくくなるだけでなく、皮膚が弛緩して(皮膚が余って)瞳に覆いかぶさってきます。
②眼瞼下垂と随伴症状
なぜ随伴症状(肩こり、頭痛、不眠など)が起こるのでしょうか?
眼瞼挙筋腱膜の力が伝わりにくくなると、眉を上げてまぶたを開けようとします。このとき額の筋肉(前頭筋)だけでなくうなじの筋肉(後頭筋)や肩の筋肉(僧帽筋)も連動して収縮します。そのために肩こり・筋緊張性頭痛がおきます。
さらに、上まぶたのもうひとつの筋肉ミュラー筋の作用を使ってまぶたを開けるようになります。このミューラー筋は交感神経支配で、ミュラー筋を収縮させるために常に交感神経を興奮させている状態になります。そうすると無意識のうちに身体は常に戦闘状態におかれてしまい、このことが交感神経刺激症状(不安障害、めまい、睡眠障害)を引き起こすと考えられています。
生まれつき眼の細い、いわゆる東洋人らしい目つきをした人は瞼を持ち上げための負担が大きく、若い時から症状が出現しやすいと予想されています。
③手術の適応は?
瞳孔から上眼瞼の縁までの距離を測定します。また、必要に応じておもり負荷テスト(1〜3グラム)を行います。
眼瞼下垂の原因は多岐にわたります。本手術の適応は腱膜性眼瞼下垂や老人性眼瞼下垂症です。眼瞼けいれんが原因のこともあり、本手術のみでは目の重たさが残るため、眼輪筋手術を必要とすることもあります。
神経原性疾患(神経の麻痺など)や筋原性疾患(重症筋無力症など)が原因のこともあり、原疾患の治療により改善が期待できることもあります。これらの薬物治療で今以上の改善が期待できなくなったとき、眼瞼下垂症手術を検討することもあります。
他院で眼瞼下垂症の手術を受けたがまぶたの挙がりがいまいち悪いなど、すでに手術を受けた患者様もご相談ください。
④あらかじめご理解いただきたい点
手術による肩こり・頭痛などの改善はまぶたに由来するものしか期待できません。本手術は美容を目的としたものではありません。手術により顔の印象が変化するのは避けられません。また修正手術を必要とすることもあります。術後の腫脹はしばらく続きます(外来にも院内モニター写真あり)。健康保険適応は限られる場合がありますので不明な点がありましたら受診して相談してください。
また、眼瞼下垂症の手術の後に直後、もしくは数年かけて眼瞼けいれんが現れてくることもあります。眼瞼下垂症の手術をしたのにまぶたが重い、肩こりが復活したなどの症状が出たら眼瞼けいれんを疑うこともあります。
*眼瞼下垂症を疑う徴候
- ひたいのしわ(まゆをしっかり持ち上げて目を開けているため)
- 目の落ち窪み・眠たい目
- あごを突き出してテレビを見る・運転する
- 肩こり・頭痛
- コンタクトレンズ長期装用、花粉症、目をこする癖(挙筋腱膜が外れてしまうため)
術後の腫れが気になる方へ:
1週間はまぶたが腫れます。2週間程度で腫脹はかなり軽減しますが、その期間は仕事に支障を来すことが予想されます。その後数ヶ月かけて徐々に落ち着いていき、6ヶ月から1年程度でほぼ最終形に落ち着きます。
眼瞼痙攣
眼を閉じるための筋肉(眼輪筋)が痙攣して目が開きにくくなる病態です。ぴくぴくする痙攣とキューっと縮こまる痙攣があります。ひどい場合は目を開けることができなくなってしまいます(開瞼失行)。ボツリヌス毒素注射により筋肉の緊張を緩める治療が通常行われますが、ボツリヌス毒素注射は長期連用すると次第に効果が出にくくなってきます。これ以上の治療の手段がないと判断された場合でも、患者様の状態によっては手術によって改善が期待できる場合もあります。また、眼瞼下垂症の手術の後に直後、もしくは数年かけて眼瞼けいれんが現れてくることもあります。眼瞼下垂症の手術をしたのにまぶたが重い、肩こりが復活したなどの症状が出たら眼瞼けいれんを疑うこともあります。
眼瞼痙攣は程度の差はあれ加齢に伴って多くの方に現れてくるものですが重度なものでは生活に支障を来し、精神的にも大変つらいものです。いまだ認知度が低く、医療機関を受診しても眼瞼痙攣と診断されないことも多いのが現状です。疑わしいと感じたらご相談ください。
眼瞼痙攣の症状
- まぶたがぴくぴくする。
- まぶたが重い。
- めがしょぼしょぼする。
- 目が開きにくいのに眉が下がってくる。
- 眼が乾く。
- まぶしく感じる。
- 眉間に縦皺がよる。
顔面神経麻痺後後遺症
ベル麻痺、ハント症候群、頭頚部手術後の顔面神経麻痺を生じ、適切な治療が行われるも一定の割合で運動麻痺が残ります。生じた運動麻痺に対し、顔面の非対称を改善させるべく形成外科手術を行います。動的再建も考慮します。
あるいは運動麻痺から回復した後、罹患側のこわばりやまぶたの痙攣、口のうごきとまぶたの動きとの共同運動、耳鳴りなどが生じ、そのまま改善せずに残ることがあります。後遺症が強度だと日常生活に著しい支障を来し、精神的なダメージは遙かに大きなものです。ボトックス注射や形成手術により改善を目指します。
眼瞼内反症、外反症
まぶたの縁が眼球側に倒れて結膜を刺激します。眼をあけるのがしんどくなります。重度な場合は結膜や角膜を傷害します。加齢に伴って増悪してくる場合も多く見られ、都度睫毛を抜去する必要が生じます。重度な場合は形成外科的に形成術を行います。