千葉大学脳神経外科

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脳腫瘍 下垂体部腫瘍
脳に触らず腫瘍を取る新しい脳外科手術
− 内視鏡を使った鼻孔経由・下垂体部腫瘍摘出術
佐伯直勝

私は間脳下垂体部腫瘍の診断治療を専門としています。その中でも最近のトピックスを中心に以下に述べたいと思います。
内視鏡の登場で、脳腫瘍の手術は、時間がかかる大手術という今までのイメージが変わりつつあります。下垂体部の腫瘍摘出術は、顕微鏡を使い唇の裏側を切開して行われてきました。しかし、私は、内視鏡を使い鼻孔を経由して下垂体部腫瘍を摘出しています。この方法により、脳に触らず、より安全にそして患者さんの負担が少なく腺腫が取れるようになりました。


上段:巨大下垂体腺腫術前
下段:内視鏡術後
下垂体腺腫について

正常下垂体は10mm前後の楕円形で、脳中心部の底面より垂れ下がり、眼や鼻の奥とは薄い骨で境されます。下垂体の数mm上方や横側を、脳を被う薄い膜を境として目の見え方や動きに関係した脳神経と頸動脈が走ります。

下垂体は全身のホルモンを調節する役割を果たしています。ここに腺腫が出来ると、周囲の圧迫による視野障害やホルモン分泌低下症状(性機能低下、行動意欲減退、易疲労性、脱毛、皮膚乾燥など)や、逆に腺腫が余分にホルモンを産生し、分泌過剰症状をきたします。

  • 成長ホルモン: 末端肥大症
  • 副腎皮質刺激ホルモン: 満月様顔貌、中心性肥満、高血圧、糖尿病など
  • プロラクチン: 生理不順、乳汁分泌

下垂体腺腫は脳腫瘍の中でも発生頻度が高く、その15〜20%を占めます。腺腫が発生し、通常20mm以上の大きさに達すると周囲組織を直接圧迫しだすため、腺腫摘出の際、合併症が生じるリスクが高くなります。そのリスクを減らすには、直接観察出来る(直視下)部分の腺腫摘出に徹することが原則です。

この部位には、髄膜腫、頭蓋咽頭腫、ラトケのう胞なども発生します。手術難易度に差はありますが、基本的に同じ方法で手術します。

より安全に より低侵襲に − 神経内視鏡

従来、顕微鏡を使って鼻経由で下垂体腺腫を摘出する工夫が成されていました。顕微鏡手術では、光源が約30cmと離れたところにあり、また直線的にしか照らすことができないため、手術操作野も狭く限られてしまいます。大きい下垂体腺腫を顕微鏡で摘出する際、上方に進展した直視下に入らない部分は取り残し、後日2回目の摘出術を行ったり、あるいは、上方に伸びた部分に対して、鼻経由でなく、最初から頭の骨をはずし脳を持ち上げて腺腫を摘出していました。

内視鏡には直径3〜4mmの細い金属棒の先端に光源と鏡がついています。手術操作部位から数cmのところで照らすため、明るく扇形に広がった照明効果が得られます。さらに種々の角度を付けた鏡を使用することで、直線方向だけでなく、ほぼ直角方向も観察可能です。内視鏡手術は、顕微鏡では観察しずらい部分の直視下手術を可能にしました。

通常行われる、傷口を上唇の裏側に作る方法では、術後、止血のために両側の鼻詰めを4〜5日行います。しかし、内視鏡手術では片側の鼻の小さな傷口から入ります。術後、使用しなかった反対側の鼻詰めが無いため息苦しさは軽く、術後の回復も早いため、患者さんの負担を減らすことが可能になりました。腺腫によるホルモン症状の一環として睡眠時無呼吸症候群が多いだけに、術後早期に鼻詰めが終了するのは、呼吸器合併症を減らす意味合いから有益です。内視鏡手術の登場で、患者さんの負担を減らし、より安全に根治性の高い手術が可能になりました。

一方で、内視鏡手術は、腺腫摘出操作に使える広さが顕微鏡に比べて狭く、立体視しづらい傾向があります。これらのデメリットを克服するには、手術機器の工夫・準備と術者の熟練が要求されます。従って、どの脳神経外科施設でも簡単に行いうる手術法ではありません。本法は熟練した専門医かその指導のもとに行われるべきもので、今後、主流になる手術法です。

患者さんの立場からは、下垂体腺腫による症状と治療前後の管理は、全身臓器に関連しているだけに、全科のそろった大学病院や総合病院の下垂体部腫瘍手術に熟練した医師を選択する事が大切です。

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