千葉大学脳神経外科

〒260-8670
千葉市中央区亥鼻1-8-1
043-222-7171(代表)

千葉大学脳神経外科の紹介
学生・研修医の皆様へ
当科の診療・研究の特徴
主催学会および研究の情報
当科の診療・研究の特徴
もくじ
脳腫瘍
脳血管障害
脊髄・脊椎疾患
頭部外傷
特殊な放射線治療
機能的脳神経外科 他
てんかんの外科
  三叉神経痛・片側顔面けいれん
  脳深部刺激療法
  神経内視鏡
  手術で治る痴呆
  脳神経疾患に対するPET検査
機能的脳神経外科 他 手術で治る痴呆
痴呆は治らないとあきらめてはいけない
千葉中央メディカルセンター
山上岩男
痴呆の中には『手術で治る痴呆』がある
 

痴呆(ぼけ)は、回復することのない、つまり非可逆的な知能障害であり、治療については、まったく絶望的と考えられていた時期もありました。確かに、痴呆をきたす病気として有名な『アルツハイマー病』は、現在でも進行を抑えたり、症状を回復する有効な手段は発見されていません(注*)。このような痴呆は、(少なくとも現時点では)やはり『治らない痴呆』と言わざるをえません。しかし痴呆の中には、痴呆の原因となった病気を治療することにより、痴呆の進行を防いだり、ときに痴呆を回復できるものがあることがわかってきました。このような痴呆は、『可逆的痴呆』あるいは『治療可能な痴呆』と呼ばれますが、『治らない痴呆』に対比させて、簡単に『治る痴呆』と言うこともできます。現実に、“痴呆は治らないものだ”とあきらめている数多くの痴呆の中には、『治る痴呆』が埋もれています(表1)。
(注*:平成12年から軽症および中等症のアルツハイマー病の進行を抑える薬が発売されました)

分 類 病 名
脳血管障害 脳梗塞、脳出血、 動静脈奇形、 ビンスワンガー病
神経変性疾患 アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン 舞踏病
内分泌・代謝性疾患 甲状腺機能低下症ビタミンB12欠乏肝性脳症
中毒性疾患 アルコール脳症有機溶剤中毒
感染性疾患 クロイツフェルト・ヤコブ病、 脳炎進行麻痺
外傷性疾患 慢性硬膜下血腫、 punch drunker症候群
精神科疾患 うつ病
その他 正常圧水頭症サルコイドーシス神経ベーチェット
1. 「治る痴呆」と「治らない痴呆」
表1 痴呆をきたすおもな病気:「治る痴呆」を赤い太字で示す
2.「手術で治る痴呆」

1965年Adamsらは、『髄液短絡術(ずいえきたんらくじゅつ)』という手術により痴呆が劇的に改善する『正常圧水頭症』という病気があることを報告しました。その後、正常圧水頭症は『治る痴呆』をきたす代表的な病気として知られるようになりました。現在では、このように手術により痴呆が劇的に回復する『手術で治る痴呆』は、正常圧水頭症の他にも、いろいろな病気が原因で発生することがわかっています。『手術で治る痴呆』をきたす代表的な病気である正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、硬膜動静脈奇形(こうまくどうじょうみゃくきけい)について、簡単に説明します。

正常圧水頭症による痴呆

『手術で治る痴呆』をきたす代表的な病気として『正常圧水頭症』があります。正常圧水頭症は、水頭症(すいとうしょう)にともない痴呆・歩行障害・尿失禁(にょうしっきん)をきたし、髄液短絡術という手術により、痴呆をはじめとするこれらの症状が劇的に改善する病気と、定義されます(図1)。
正常圧水頭症のおもな症状は、痴呆・歩行障害・尿失禁の3つです。これらの三主徴は、一般には(1)歩行障害、(2)痴呆、(3)尿失禁という順序で出現し、数カ月ほどの間に進行性に悪化して行きます。
治療として『髄液短絡術』(脳室腹腔短絡術あるいは脳室心房短絡術)が行われます(図2)。髄液短絡術により、三主徴は劇的に回復します。


図1 正常圧水頭症のCTとMRT。著名な脳室拡大と脳室周囲の脳浮遊腫を認める。

図2 髄液短絡術。体内に埋め込まれたシャントシステムを通して、脳室内に異常に貯留した髄液を腹啌室へ(脳室腹啌短絡術:図左)、あるいは心房へ(脳室心房短絡術:図右)、導く手術法である。
慢性硬膜下血腫による痴呆

軽い頭部外傷を受けた後、1カ月以上経過してから、慢性硬膜下血腫という病気が原因で、痴呆や歩行障害があらわれることがあります。
頭蓋内の硬膜(こうまく)とくも膜の間(このスペースを『硬膜下腔(こうまくかくう)』と呼びます)に、被膜に包まれた流動性(液体状)の血腫(血液のかたまり)ができた場合を、『慢性硬膜下血腫』と呼びます(図3)。この血腫は、軽い頭部外傷を受けた後、1〜数カ月たった頃にできることが多く、血腫の出現とともに、徐々に進行する頭痛、歩行障害、痴呆などの症状をきたします。
『穿頭(せんとう)・洗浄・ドレナージ術』という手術により、慢性硬膜下血腫は治ります。穿頭・洗浄・ドレナージ術という手術により、血腫は消失し、手術直後から症状の著明な改善が得られます(図4)。手術後、血腫が再発することはほとんどありません(5%以下)。


図3 慢性硬膜下血腫は、硬膜側にある外膜と、くも膜側にある内膜、そしてこれらの皮膜に包まれた液体状の血膜から成り立っている。

図4 慢性硬膜下血腫のCT。手術前に認められた血膜(図上段:血膜のほとんどは、CT上白く描出されている)は、術後完全に消失している(図下段)。
 
硬膜動静脈奇形による痴呆

比較的稀なものではありますが、『硬膜動静脈奇形』という病気が、痴呆をきたすことがあります。
頭部の血管の異常に『動静脈奇形(どうじょうみゃくきけい)』と呼ばれるものがあります。正常な脳血管系には、動脈と静脈の間に毛細血管があります。しかし、動静脈奇形という血管異常では、動脈と静脈との間に、本来ならあるべき毛細血管がありません。そのかわり、動脈と静脈をつなぐ、大小さまざまな異常血管(『短絡血管』と呼ばれます)が発達しています。動静脈奇形の部分では、血液がこの短絡血管を通るために、血液は脳細胞への栄養供給・老廃物の受け取りという本来の役割を果たさないまま、動脈から静脈へ素通りしてしまいます。動静脈奇形には、『ナイダス』(大小さまざまな短絡血管が集まった部分で動静脈奇形の本体部分)、『導入動脈』(ナイダスに血液を供給する動脈)、『導出静脈』(ナイダスからの大量の血液が流れ出る異常に拡張した静脈)の3つの構成要素があります。このような動静脈奇形が脳血管にできている場合を、『脳動静脈奇形』と呼び、脳を覆う硬膜の血管にできているものを『硬膜動静脈奇形』と呼びます(図5)。

硬膜動静脈奇形が、脳、とくに両側の間脳と呼ばれる脳の血液の流れを障害した場合、おもな症状として痴呆をきたすことがあります。原因となった硬膜動静脈奇形を外科的に治療することにより、痴呆を治すことができます。硬膜動静脈奇形の外科的治療には、手術による摘出術と血管内手術による塞栓術(そくせんじゅつ)があります。

硬膜動静脈奇形による痴呆

『手術で治る痴呆』をきたす原因として、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、硬膜動静脈奇形という病気があることを説明してきました。この他にも、頭蓋内に発生するいろいろな病気により、『手術で治る痴呆』がおこることが知られています(表2)。
『手術で治る痴呆』をきたす病気とその治療法

『手術で治る痴呆』をきたす病気 治療法
脳血管障害
 脳動静脈奇形 摘出術、血管内手術(塞栓術)、ガンマナイフ
 硬膜動静脈奇形 同上
水頭症
 正常圧水頭症(特発性、二次性) 髄液短絡術
 中脳水道狭窄による水頭症 髄液短絡術、神経内視鏡による開窓術
 その他の水頭症 同上
外傷性疾患
 慢性硬膜下血腫 穿頭・洗浄・ドレナージ術
 外傷後水頭症 髄液短絡術
脳腫瘍
 脳室内腫瘍、髄膜腫(前・中頭蓋窩) 脳腫瘍摘出術、放射線治療など
 下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫
表2 『手術で治る痴呆』をきたす病気とその治療法

参考文献:
「手術で治る痴呆」(山上岩男著、近代文芸社、2000年発行)
正常圧水頭症に関連したホームページhttp://www.inph.jp/

ページのトップへ戻る

無断転写はお断りします。必ず事前にご連絡ください。