一般的に虐待を受けやすいのは育児に手のかかる子です。しかし虐待による頭部外傷はごく普通の子どもが犠牲になる場合も多く、乳児〜学童期前の小児の頭のけがの4-24%は虐待によると言われます。まず疑いを持って診察することが重要です。
身体的虐待では外傷を受けたことを隠して来院することも多く、親の話はあいまいで要領を得ず、問い直すことにより説明内容が変わったりもします。症状としては、意識障害・痙攣発作・呼吸障害・摂食不良・易刺激性などが多く、痙攣発作も頻度高く認めます。眼底出血は虐待による外傷を強く示唆する所見と考えられています。
目撃者のいない乳幼児の不審なけがで、頭蓋内に急性硬膜下血腫やくも膜下出血を認める場合には一度は虐待を疑います。また急性期に虐待が見逃された結果、慢性硬膜下血腫として見つかることもあります。2才以下で虐待による頭部外傷が疑われる症例では全身の骨検査を行い、骨折痕の有無を調べることも推奨されます。
頭部外傷といっても必ずしも顔面や頭部に打撲の痕があるとは限りません。
頭に直接的な力が加わらなくとも、同じような病態を生じる虐待のメカニズムとして“揺さぶられっ子症候群”が知られています。これは頸の座りが未熟な乳幼児の上肢や胸部をつかみ、前後へ激しく揺さぶることで、外表面に外傷の痕がないにもかかわらず強い脳損傷や硬膜下血腫、眼底出血を引き起こすものです。
虐待による頭部外傷の死亡率は15-27%とも報告され、極めて重症な経過をたどります。生存してもその後に正常に発達できるのは11-41%に過ぎないと言われます。従って、早期発見とともに再発の予防が重要なのです。 |