病態に関する説明用紙

停留精巣・移動精巣

 

 

1.停留精巣・移動精巣の病態と症状

精巣(睾丸)は、妊娠3ヶ月頃までは腹腔内に存在し、それが徐々に下降して、生まれる頃にようやく陰嚢に到達します。この下降が止まってしまい、陰嚢の中に精巣が無い状態を停留精巣といいます。1歳児の約0.8%にみられます。また、精巣の下降はほぼ正常ですが、陰嚢への固定が弱く、上方に挙がりやすくなっている状態を移動精巣といいます。

 

 

2.自然経過

出生時に停留精巣の状態であっても、生後6ヶ月頃までは自然に下降する可能性があります。しかし1歳を超えると、その可能性は極めて低くなります。

移動精巣も自然治癒する可能性はあります。そのため、定期的に経過観察を行い、改善が見られない場合には手術が必要となります。挙上の程度にもよりますが、6歳頃までに固定されない場合、手術が望ましいと考えます。

 

 

3. 精巣挙上による悪影響と手術の必要性

陰嚢内にある正常の精巣は、体幹から離れているために、体温よりわずかに低い温度(約0.5℃低い)に保たれています。正常な精巣の発育・精子の形成には、体温より低い温度が必要です。しかし停留精巣の場合、精巣は体幹に接しているため、体温の影響を直接受けます。そのため、手術しないで放置すると、精巣の発育不良が生じたり、精子の産生能が低下したりする危険性があります。

停留精巣では、成人以降の発癌率が正常人に比べ5倍程度高くなると報告されています。陰嚢内に固定することにより、万が一発癌した場合も早期発見の可能性が高くなります。

以上の理由により、1歳を過ぎても精巣が下降しないお子様には積極的に手術をお勧めしています。

移動精巣の場合は、前述の危険因子を踏まえ、挙上の程度(1日の内でどの位挙がっているか)や精巣発育の状況により手術の適応を判断いたします。

 

 

 

 

              正常の精巣下降                               停留精巣                                  移動精巣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 


手術説明用紙

停留精巣・移動精巣

1.根治手術の必要性について

 精巣が体幹に接している場合、体温の影響を受け、精巣の発育不良・精子産生能の低下・癌化率の上昇などの危険性があります。そうした悪影響を回避するため、精巣を陰嚢内に固定する手術が必要です。

2.手術方法について

手術の概略は、精巣を降ろすために「ぶらぶら」の状態にすることと、それを陰嚢内に固定することです。

まず、鼠径部(足の付け根のやや頭側)に23cmの横切開を置きます。挙上した精巣を引き降ろすため、精巣動静脈(精巣への血流)及び輸精管(精子を運ぶ管)の周囲を十分に剥離することが必要です。この際、精巣動静脈・輸精管と併走する腹膜鞘状突起(陰嚢方向に突出した腹膜)の結紮処理を同時に行います。

続いて、陰嚢下部に12cmの横切開を置き、周囲から剥離された精巣を陰嚢内に引き降ろし、陰嚢壁内面(肉様膜)に直接固定します。ただし、降ろそうとする精巣があまりにも小さく、陰嚢内に固定するメリットが無いと判断した場合、その精巣は固定せず摘出してしまう場合があります。

鼠径部の創は吸収糸(溶ける糸)で縫合しますので、抜糸はしません。陰嚢の創は糸が見える縫い方で縫合しますが、抜糸はせず、自然に糸が脱落するのを待ちます。

手術時間は片側で1時間前後です。

移動精巣で、挙上の程度が軽い場合、陰嚢の創からのみで固定術が可能なことがあります。

3.期待される結果

陰嚢内への精巣固定により精巣発達・精子形成への悪影響を回避し、正常な性発育及び妊孕性を目指します。

4.可能性のある合併症

出血              術中及び術後に出血する場合があります。術後出血は圧迫で止まることがほとんどです。

創感染           皮下に感染した場合、術後1週頃に発赤・腫脹の後、膿が出ることがあります。消毒することで治癒しますが、治癒後の外観が悪くなります。陰嚢の創に感染した場合、精巣が露出することがあり、その場合治癒に時間がかかります。

縫合糸膿瘍    体内に残った糸への感染です。術後かなり時間が経過した後に発症することがあります。創部から膿が出た時に、一緒に糸が出れば治癒します。

腫脹              創部周辺の腫脹が強く、また長期間に及ぶ場合があります。青あざを伴ったような状態となることもあります(血腫)。これらに伴い、疼痛が長期間持続する場合があります。

再発              固定した精巣の再挙上を認めることがあり、再手術を要する場合があります。

術後精巣萎縮・消失

                     陰嚢まで降りて来られなかった精巣は元々機能が低下している可能性があります。そのため、せっかく降ろした精巣が術後の経過中に萎縮して、時には消失してしまうことがあります。

周辺臓器への損傷・影響

                     手術操作において、周辺臓器を傷付けてしまう可能性があります。輸精管や精巣への血流を傷害してしまう可能性があります。その場合、長期的に精巣の萎縮を来たしてしまう可能性があります。精管を損傷した場合、可及的に吻合し、機能の温存に努めます。また、膀胱壁を損傷してしまう可能性があります。

その他           予期することの困難な、極めて稀な合併症が生じる可能性があります。

5.当処置を受けない場合に予測される病状の推移

精巣の発育・精子の形成に対し悪影響が出る可能性があります。

 

 

 

 


入院・手術・退院後の予定

停留精巣・移動精巣

当科の手術日は水・金曜日です。手術前日に入院して頂きます。停留精巣の場合の退院日は術後5日目になります。移動精巣で、鼠径部を切開する必要がなかった場合、手術翌日の退院が可能です。

 

@ 入院1日目      (火or木)

入院当日は、水分、食事は自由に摂れます。

手術を担当する当科医師より手術に関する説明があります。

麻酔科医師により麻酔に関する説明があります。この時に手術当日の飲食の指示があります。

 

A 入院2日目:手術 (水or金)

手術室に入るおおよその時間は前日決定します。ただし、ほかの手術の進行状況により多少前後することがあります。

帰室後12時間は泣いたり暴れたりすることがあります。多くの場合、痛みのためではなく、麻酔からさめた後の一時的な興奮状態によるものですので、心配は要りません。手術中に大きな合併症がなければ通常帰室後2時間より水分を摂ることが可能です。水分を飲んで30分様子を見て、嘔吐、吐き気がなければ食事を摂ってもさしつかえありませんが、はじめは慎重に少しずつ与えてください。

必要に応じ痛み止めの座薬を使います(痛みを訴えるのは通常当日のみで、翌日まで痛がり座薬が必要となることは稀です)。

 

B 入院37日目:退院

朝回診で傷や全身の状態を診察します。問題がなければ退院となります。

会計箋をご用意できる時間がお約束できないため、次回の外来受診時に会計をお願い致します。当日会計をご希望の方は、事前にお伝えください(土日は会計業務ができません)。

 

C 退院後

退院後の外来受診日は退院日の翌週となります(水曜日に手術を受けた方は、退院日の翌週の火曜日、金曜日に手術を受けた方は、退院日の翌週の木曜日です)。その後、間隔は開きますが、思春期頃まで精巣の発育状況をチェックするために外来を受診していただくことになります。

 

3日間の入院の方は、次回受診まで絆創膏を貼ったままにして頂き、入浴・シャワー浴はできません。手術創の上に張ってある白い絆創膏が、尿・便などで多少汚れても問題ありません。傷の上は、水絆創膏で汚れや細菌が入らないようにコーティングしてあるので、絆創膏が剥れても大丈夫です。

7日間入院の方は、退院日の朝回診で絆創膏をはがし、創部に問題が無ければ翌日からの入浴が可能です。ご家庭で消毒の必要はありません。

陰嚢部分の傷には透明の糸がついていますが、抜糸はいたしません。自然に取れてしまうまでそのままにしていただいて結構です。

退院後1週間程度は、激しい運動、傷をぶつける、自転車を激しくこぐ事などはできるだけ避けてください。鉄棒などの傷を擦りつける運動に関しては、術後1ヶ月程度は控えて下さい。ご心配があれば電話にて指示を受けてください。