肥厚性幽門狭窄症に関する説明用紙

 

 

1. 肥厚性幽門狭窄症の病態・症状

肥厚性幽門狭窄症は、生後約23週の頃から幽門(胃の出口)部分の筋層が徐々に厚くなり、下の図のように胃の出口が狭くなる疾患です。このため徐々にミルクの通過が悪くなり、飲んでも吐いてしまうようになります。生後約34週頃に、ミルクを噴水状に勢い良く吐くのが特徴的な症状です。また、吐いた後は機嫌も良く、すぐに飲みたがります。この状態が続くと、ミルクが胃を通過しないので脱水となります。更に、栄養不足による体重増加不良・体重減少をきたします。また、嘔吐により胃酸が喪失されるため、体内の電解質異常をきたします。

肥厚性幽門狭窄症の原因はまだ分かっていません。男女比は4:1で男児に多く、出生順で第1子が約50%と言われています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


2.診断

腹部にしこり(肥厚した筋層)を触れることで診断します。お子様が泣いている時にはわかりにくいことがあります。また、超音波検査を行い、厚くなった筋層を観察し、確定診断と致します。

診察及び超音波検査時に鼻から胃に管を入れます。胃の中味を引いて胃を空にすることでしこりを触れやすくし、さらに管から水を入れることで超音波検査の際、胃の出口の観察が容易となります。

 

 

3.治療

治療には手術療法と保存的療法とがあります。

@     手術:粘膜外幽門筋切開術(ラムステッド法)

肥厚した筋肉を切開し、胃の出口の通過をよくするというものです。

長所:手術翌日よりミルクを開始することができ、早期に栄養障害を改善することができます。

短所:全身麻酔が必要です。手術創が残ります。

A     保存的療法:硫酸アトロピンによる薬物療法

硫酸アトロピンという薬(胃の出口を一時的にひろげる薬)を使って治療する方法です。

長所:全身麻酔を避けることができます。手術創もありません。

短所:効果が出るのに時間がかかる上に効果が一定ではなく、すぐに十分なミルクを飲めません。そのため治療期間も長く、栄養不良の状態が長く続く可能性があります。効果が充分でなければその時点で手術療法に移行することになります。また、皮膚の紅潮や中枢神経症状を呈することがあります。

 

当科では、赤ちゃんの栄養障害を早期に改善することが最も重要と考え、手術療法を施行しています。

 

 

 


肥厚性幽門狭窄症 手術説明用紙

 

1.    手術の必要性について

ミルクが胃を通過しない状態を放置しておくと栄養が不十分であるため、成長・発達障害が進行します。手術により通過障害を治療して栄養状態を改善する必要があります。

 

2.    手術方法について

術式:粘膜外幽門筋切開術(ラムステッド法)

全身麻酔で手術を行います。臍の右上を3p程横に切開し、開腹します。胃の出口(幽門部)を引き出し、厚くなった筋肉のみを切開して拡げます。押しつぶされていた粘膜がもり上がり、中の通路が拡がり胃の内容物が通過できるようになります。最後に鼻管から空気を送り、胃の壁に孔があいていないか確認し、切開した筋肉の止血を行い、お腹を縫って閉じます。糸は吸収糸を用いるため、抜糸はいたしません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


3.    期待される効果

胃からのミルク通過が得られることにより、嘔吐の症状がよくなり、栄養状態が改善します。

 

4.    可能性のある合併症

出血:      術中及び術後に出血する場合があります。術後の出血は圧迫で止まることがほとんどです。通常出血は少量で輸血を要することは稀です。

粘膜穿孔:    筋層切開部の粘膜に穴があくことがあります。その場合、孔を縫って閉鎖します。術後のミルクの開始が遅くなります。

臓器損傷:    手術操作により、周囲の腸管や臓器を傷付けてしまう可能性があります。その場合、損傷部を縫合し、修復につとめます。

創感染:       皮下に感染した場合、術後1週頃に発赤・腫脹の後、膿が出ることがあります。消毒することで治癒しますが、治癒後の外観が悪くなります。

腸閉塞:              開腹手術を行うと、腸管と腸管の間、あるいは腸管とお腹の創との間に癒着が生じます。癒着を起こすこと自体は正常の創の治癒過程ですが、癒着が原因で腸の通過障害(腸閉塞)をひきおこすことがあります(全開腹手術の10%程度)。腸閉塞をおこすと腹痛、嘔吐、腹部膨満といった症状が出現します。内科的治療で軽快することが多いですが、手術が必要となることもあります。

再発:                  極めて稀に、再発することがあります。症状に応じて再手術が必要な場合もあります。

その他:       予期することの困難な、極めて稀な合併症が生じる可能性があります。

 

5.    術後経過

手術翌日に鼻から入っている管を抜き、少しずつ哺乳を開始します。術後2日目頃には、成長に必要な量のミルクを飲めるようになります。お子様によっては、多少吐いてしまうことがありますが、徐々に改善しますので心配はありません。体重が順調に増加していけば退院となります。

 

6.     当処置を受けない場合に予想される病状の推移

ミルクが胃を通過しない状態が継続し、成長障害が助長されます。