対象疾患

腫瘍内科は化学療法・分子標的治療など薬物療法を中心とした内科的治療を専門とする診療科ですが、外科、放射線科、緩和ケア支援チームをはじめとした関連診療科と密接に連携をとりながら診療を進めています。
悪性疾患(がん)の治療は、単に腫瘍を小さくするだけではなく、症状を和らげ、治療の副作用を予防し、生活の質(quality of life = QOL)を改善し、家庭環境を含めた療養環境にも配慮することが重要です。
さまざまながんを診療しますが、臓器にとらわれない診療を行い、臓器別診療では盲点になりやすい疾患に力を入れております。特に以下の疾患の診療を得意としております(クリックすると解説が表示されます)。

●肺がん

腫瘍内科では、呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科、緩和ケア支援チーム、病理診断部などと協力して肺がんの治療に積極的に取り組んでいます。肺がんは大きく小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分類されます。

  • 小細胞肺がん
    まれにステージ1で診断されることもありますが、ほとんどはステージ2以上で診断されます片側の胸に限局した場合は強力な化学療法と胸部放射線治療を同時に併用することにより治癒も期待できるので初回から専門家による治療を受けることが重要です。片側の胸を超えてがんが進展した場合は化学療法のみで治療されます。化学療法により80%程度で著明な腫瘍縮小とQOLの改善、生存期間の延長が得られます。
  • 非小細胞肺がん
    手術によりがんが完全に取り除かれた後でも化学療法が必要になることがあります。転移はないが局所で進行し、手術ができない場合は、化学療法と胸部放射線治療を同時に併用することにより治癒も期待できます。転移をおこした進行がんの場合でも、最近の化学療法・分子標的治療の進歩のお陰で、QOLの改善と顕著な生存期間の延長が得られるようになりました。
    特に肺腺がんではEGFR、ALKなどの遺伝子異常を調べ、個々のがんに最適な治療を計画する(個別化治療)ことが重要です。

●胸腺腫瘍

胸腺腫瘍は比較的まれです。胸腺腫と胸腺がんの2つの病気があります。いずれも早期であれば手術によって完全に取り除くことが重要です。手術ができない場合、手術後に再発した場合は化学療法を行います。

  • 胸腺腫
    比較的悪性度の低いがんであり、あまり転移はしませんが、局所で進行し手術ができない場合は化学療法を行います。重症筋無力症(筋力が低下します)、赤芽球ろう(貧血になります)、低ガンマグロブリン血症(感染症がおこりやすくなります)など、さまざまな合併症を伴うことも多く、神経内科、血液内科などと連携を取りながら治療を行います。
  • 胸腺がん
    手術ができない場合の治療法は必ずしも確立されていません。腫瘍内科では非小細胞肺がんに準じて、化学療法を胸部放射線治療の同時併用、化学療法のみによる治療などを行っています。

●胸膜中皮腫

アスベスト(石綿)によって発症することが有名ですが、アスベストの使用歴がはっきりしないことも多いです。比較的早期であれば、手術と放射線治療に化学療法を追加しますが、進行している場合には化学療法を行います。当院呼吸器内科では遺伝子治療、ゾレドロン酸を使った臨床試験を行っておりますので、これらの新しい治療にも積極的に取り組みます。

●原発不明がん

原発不明がんとは「臨床的に注意深い全身検索や経過観察を行っても原発巣が同定できない転移性の腫瘍を示し、さまざまな腫瘍が混在した不均一な疾患グループ」と定義され、全固形がんの3〜5%を占めます。診断が進まないことに、患者、医療提供者双方が不安を抱くことになります。臓器別診療にこだわると、担当医すら決められないことにもなりかねません。従って原発巣検索ばかりに時間を浪費することなく、「原発不明がん」としての診療を行う事が重要で、この疾患に対し特別なトレーニングを受けた専門家が治療にあたる必要があります。腫瘍内科では、臨床試験も含め積極的に診療しています。

●性腺外胚細胞腫(セイセンガイハイサイボウシュ)

胚細胞(精子や卵のもとになる細胞)から発生する悪性腫瘍のうち精巣・卵巣以外の臓器に発生するもので、きわめてまれな病気です。しかし、20〜30歳代の若い患者さんがほとんどで、治療が遅れると急速に進行し致死的ですが、適切な化学療法を行えば転移があっても治癒率が高いので、はじめから治療に習熟した専門家による治療を受けることが極めて重要です。

●重複がん

同時に2つ以上の臓器にがんができることも少なくはありません。両方とも手術で取り切れる場合はあまり問題ありませんが、進行がんで化学療法を行う場合は臓器別診療では対応が難しい場合があります。このような場合、腫瘍内科は関係診療科の橋渡し役となり、最適な治療を工夫し提供します。

●成人軟部肉腫

早期であれば手術で完全に取り除くのがもっとも有効です。手術ができない場合は放射線治療、化学療法、分子標的治療が行われますが、まれな病気であるため標準的治療も未確立で十分な治療経験がない場合もあります。臓器別診療科ではこの難治性の疾患に積極的に取り組んでいます。

●メラノーマ(皮膚以外)

早期であれば手術で完全に取り除くのがもっとも有効です。また皮膚のメラノーマは当院では皮膚科が豊富な治療実績を誇っています。しかし、まれに皮膚以外の臓器に発生し、全身に転移した場合は腫瘍内科でも積極的に診療しています。特別な遺伝子に異常がある場合は国立がん研究センターの治験にご紹介し、最新の治療が受けられるよう心がけています。これまでの薬物療法に比べて格段に有効性の高い免疫チェックポイント標的薬(ニボルマブ)も保険承認され、当科でも治療ができるようになりました。

●頭頸部・口腔がん

「甲状腺癌診療連携プログラム」に参加し、協力施設として、甲状腺がんの化学療法・分子標的治療を提供しています。
甲状腺癌診療連携プログラム

●慢性透析中の化学療法

人工透析の進歩により、透析患者さんが長生きできるようになった反面、高齢化によるがんの合併も増えてきました。腎不全があると抗がん薬が尿から排泄できなく、深刻な副作用を起こすことが危惧されますが、抗がん薬や分子標的治療薬に対する十分な知識を駆使することにより、透析中でも安全に使える薬も少なくありません。透析中の化学療法を科学的エビデンスに基づいて行っています。

●取組中の治験薬(新薬)

腫瘍内科では現在(2014年2月現在)、以下の治験薬(承認・発売前の新薬)の臨床試験を行っており、条件を満たし、ご希望される患者さんのご参加を歓迎致します。

  • ラムシルマブ
    非小細胞肺がんで、初回治療中・初回治療後にがんが再び大きくなった患者さんを対象に、標準的化学療法との併用効果を調べます。(新しい患者さんの登録を終了しました)
  • アレクチニブ
    ALK融合遺伝子陽性の進行・再発非小細胞肺がんの患者さんに対し、クリゾチニブ(これまでの標準的治療薬のひとつ)とアレクチニブ(新薬)の効果を比較します。
  • ONO7643
    がん悪液質を改善すると期待されています。化学療法を行っている進行非小細胞がんの患者さんに対し、除脂肪体重や運動能力などへの効果を調べます。
  • その他
    既に承認された抗がん薬・分子標的治療薬を使って、より有効で安全な治療を目指した臨床研究を数多く行っています。