千葉大学医学部附属病院 検査部
Division of Laboratory Medicine, Chiba University Hospital
 
生化学免疫検査室

生化学検査とは

体液やからだの組織から検査材料をとって化学的に分析し、健康状態や病気の度合い、病気の場所を推定する検査です。検査項目となっている1つの成分が特定の場所のみから出てきたり、増えたりするのではないため、1つの検査で悪い場所や度合いを決定するわけではありません。複数の項目を組み合わせて総合的に判断します。 主に血液を遠心分離(回転の遠心力で重いものを沈め、軽いものを浮かせる)し、得られた上清(血清)を用いて検査します。

 

<生化学検査の目的と主な検査項目>

目的 検査項目
肝・胆・膵機能
AST, ALT, LDAST, ALT, LD
【基準範囲】
AST: 13-33 U/L
ALT: 8-42 U/L
LD: 119-229 U/L
【解説】
肝臓の細胞が壊れると増加するため、肝細胞の障害の程度を示します。肝臓以外の病気でも増えることがあります。
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ALP, γ-GTPALP, γ-GTP
【基準範囲】
ALP: 115-359 U/L
γ-GTP: 10-47 U/L
【解説】
肝臓・胆のう・膵臓などの病気で胆汁の流れが悪くなったとき増加します。ALPは骨の病気などでも増加することがあります。また、γ-GTPは習慣飲酒などによっても増加します。
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コリンエステラーゼコリンエステラーゼ
【基準範囲】
214-466 U/L
【解説】
肝臓のタンパク質をつくる働きの指標です。肝硬変では低下し、脂肪肝などでは増加します。
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アミラーゼアミラーゼ
【基準範囲】
35-110 U/L
【解説】
膵液や唾液に含まれる酵素で、膵臓や唾液腺の病気で増加します。
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総タンパク, アルブミン総タンパク, アルブミン
【基準範囲】
総タンパク: 6.5-8.2 g/dL
アルブミン: 3.9〜5.1 g/dL
【解説】
総タンパクは血液中のタンパク質の総量をあらわします。アルブミンは代表的なタンパク質の一つで、両者ともに栄養状態の指標になります。
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総ビリルビン, 抱合型ビリルビン総ビリルビン, 抱合型ビリルビン
【基準範囲】
総ビリルビン: 0.2-1.2 mg/dL
抱合型ビリルビン: 0.0-0.2 mg/dL
【解説】
黄疸の程度を示します。肝臓・胆道の病気、ある種の貧血などで増加します。抱合型ビリルビンは従来、直接ビリルビンと呼ばれていた項目に相当します。
腎機能
尿酸尿酸
【基準範囲】
7.0 mg/dL以下
【解説】
老廃物の一種で、高値になると痛風になる危険が増えます。
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尿素窒素, クレアチニン尿素窒素, クレアチニン
【基準範囲】
尿素窒素: 8-20 mg/dL
クレアチニン: 男 0.61-1.04, 女 0.47-0.79 mg/dL
【解説】
腎臓の働きをみる検査です。腎臓から排泄される老廃物で、腎機能が悪くなると増加します。
筋(肉)関連
CKCK
【基準範囲】
男 62-287, 女 45-163 U/L
【解説】
筋肉に含まれる酵素で、心筋梗塞や筋肉の病気で増加します。運動後や、筋肉注射を受けた後にも増加します。
糖代謝
血糖血糖
【基準範囲】
70-109 mg/dL
【解説】
血液中のぶどう糖(グルコース)濃度を示します。糖尿病で高値になります。
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HbA1c(NGSP)HbA1c(NGSP)
【基準範囲】
4.6-6.2 % (NGSP値)
【解説】
過去1〜2ヶ月間の平均血糖値を反映しているので、糖尿病の患者さんの長期の血糖のコントロール状態がわかります。ある時点の血糖値が正常でもグリコヘモグロビンA1Cの値が高いと、糖尿病が疑われます。
脂質代謝
総コレステロール, 中性脂肪, LDL-CHO総コレステロール, 中性脂肪, LDL-CHO
【基準範囲】
総コレステロール: 125-219 mg/dL
中性脂肪: 35-149 mg/dL
LDL-CHO: 140 mg/dL未満
【解説】
総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、中性脂肪が増加した場合を高脂血症といいます。
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HDLコレステロールHDLコレステロール
【基準範囲】
40 mg/dL以上
【解説】
善玉コレステロールと呼ばれ、この値が低いほうが動脈硬化の危険が大きくなります。
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APO-A1, APO-B, APO-EAPO-A1, APO-B, APO-E
【基準範囲】
APO-A1: 男 119-155, 女 126-165 mg/dL
APO-B: 男 73-109, 女 66-101 mg/dL
APO-E: 男 2.7-4.3, 女 2.8-4.6 mg/dL
【解説】
血液中でコレステロールや中性脂肪と結合しています。高脂血症の分類に役立ちます。
鉄関連
鉄, UIBC鉄, UIBC
【基準範囲】
: 男 64-187, 女 40-162 μg/dL
UIBC: 男 140-330, 女 130-390 μg/dL
【解説】
鉄が低値を示す場合は鉄欠乏性貧血などが考えられます。増減のパターンは、鉄欠乏性貧血の診断に役立ちます。
電解質
Na, K, Cl, カルシウム, マグネシウム, 無機リンNa, K, Cl, カルシウム, マグネシウム, 無機リン
【基準範囲】
Na: 135-145 mmol/L
K: 3.6-5.0 mmol/L
Cl: 98-108 mmol/L
カルシウム: 8.6-10.1 mg/dL
マグネシウム: 1.6-2.5 mg/dL
無機リン: 2.5-4.5 mg/dL
【解説】
血液中の電解質の濃度です。腎臓の病気やホルモンの異常、脱水などで増加したり、減少したりします。

 

免疫(免疫血清)検査とは

体の外から入ってくる異物(細菌やウィルス:「抗原」)に対して体内が抵抗する働きを「免疫」と呼び、この時に作られる物質が「抗体」と呼ばれます。免疫血清検査はこの抗体の有無や量を調べる検査で、感染する病気の診断に使用されます。最近ではその他にも、免疫反応(抗原と抗体の結びつく反応)を利用して微量な成分を検査するものも指します。生化学検査と同様に、血清を用いて検査をします。

 

<免疫検査の目的と主な検査項目>

目的 検査項目
感染症
HTLV-1抗体HTLV-1抗体
【基準範囲】

【解説】
成人T細胞性白血病のウイルスに感染しているかがわかります。
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HIV-抗体HIV-抗体
【基準範囲】

【解説】
後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)のウイルスに感染しているかがわかります。
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HBS抗原HBS抗原
【基準範囲】

【解説】
現在B型肝炎ウイルスに感染しているかがわかります。
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HBS抗体HBS抗体
【基準範囲】
- (10.0 mIU/mL未満)
【解説】
過去にB型肝炎ウイルスに感染したことがあるか、B型肝炎ワクチンを接種した場合に陽性になります。
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HCV抗体HCV抗体
【基準範囲】
- (1.0 C.O.I.未満)
【解説】
現在C型肝炎ウイルスに感染しているか、または過去に感染したことがあるかがわかります。
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梅毒TP抗体, RPR梅毒TP抗体, RPR
【基準範囲】
梅毒TP抗体: -
RPR: -
【解説】
梅毒に感染しているかがわかります。RPRテストは自己抗体の検査に用いることもあります。
ホルモン
インシュリンインシュリン
【基準範囲】
1.2-9.0 μIU/mL (空腹時)
【解説】
血糖値を調節するホルモンです。糖尿病の診断に役立ちます。
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TSH, 遊離T3, 遊離T4TSH, 遊離T3, 遊離T4
【基準範囲】
TSH: 0.350-4.940 μIU/mL
遊離T3: 1.71-3.71 pg/mL
遊離T4: 0.70-1.48 ng/dL
【解説】
遊離T3、T4は甲状腺で作られるホルモンで、甲状腺の病気の鑑別に役立ち、脳(下垂体)から分泌されるホルモンであるTSHは、甲状腺ホルモンの産生を調節します。
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プロラクチンプロラクチン
【基準範囲】
男 3.46-19.40, 女 5.18-26.53 ng/mL
【解説】
脳(下垂体)から分泌されるホルモンの1つです。下垂体の病気の診断に役立ちます。
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副腎皮質刺激ホルモン, コルチゾール副腎皮質刺激ホルモン, コルチゾール
【基準範囲】
副腎皮質刺激ホルモン: 46 pg/mL以下
コルチゾール: 5-25 μg/dL
【解説】
副腎皮質刺激ホルモンは脳(下垂体)から分泌されるホルモンの1つです。コルチゾールは副腎から分泌されるホルモンで、副腎の病気の鑑別に役立ちます。
腫瘍マーカー
CEACEA
【基準範囲】
5.2 ng/mL以下
【解説】
胃癌、大腸癌、肺癌の腫瘍マーカーです。初期の癌では増加しないことが多く、長期の喫煙で軽度の増加がみられます。
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AFP, AFP-L3, PIVKA-2AFP, AFP-L3, PIVKA-2
【基準範囲】
AFP: 8.0 ng/mL以下
AFP-L3: 10.0 %未満
PIVKA-2: 40 mAU/mL未満
【解説】
肝臓癌の腫瘍マーカーです。AFPは慢性肝炎や肝硬変でも軽度の増加がみられるため、AFP-L3分画の測定で癌による増加かどうかがわかります。初期の癌では増加しないことが多いです。
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CA19-9CA19-9
【基準範囲】
36.8 U/mL以下
【解説】
膵臓癌や胆のう癌などの腫瘍マーカーです。初期の癌では増加しないことが多いです。良性の肝・胆・膵疾患でも増加することがあります。
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CA125CA125
【基準範囲】
24.5 U/mL以下 (50歳以下の女性)
【解説】
卵巣癌などの腫瘍マーカーです。初期の癌では増加しないことが多いです。子宮内膜症や月経、妊娠などでも増加します。
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CA15-3CA15-3
【基準範囲】
22.0 U/mL以下
【解説】
乳癌などの腫瘍マーカーです。初期の癌では増加しないことが多いです。
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CYFRA, ProGRPCYFRA, ProGRP
【基準範囲】
CYFRA: 2.1 ng/mL以下
ProGRP: 63.0 pg/mL以下
【解説】
肺癌の腫瘍マーカーです。CYFRAは特に扁平上皮癌で増加します。初期の癌では増加しないことが多いです。
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KL-6KL-6
【基準範囲】
500 U/mL未満
【解説】
間質性肺炎のとき高値になります。
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PSA, F-PSA, PSA_F/TPSA, F-PSA, PSA_F/T
【基準範囲】
PSA: 4.00 ng/mL以下
F-PSA: -
PSA_F/T: 25 %以上
【解説】
前立腺癌の腫瘍マーカーです。良性の前立腺肥大と見分けるためにF/T比が役立ちます。
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FERFER
【基準範囲】
男 50.0-200.0, 女 12.0〜 60.0 ng/mL
【解説】
FERは鉄と結合して体内に貯蔵するタンパク質で、鉄欠乏性貧血で低値となりますが、悪性腫瘍などで高値となることがあります。
心疾患マーカー
トロポニンIトロポニンI
【基準範囲】
トロポニンI: 0.09 ng/mL以下
CK-MB: 3.7 ng/mL以下
【解説】
心筋梗塞で増加します。
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ミオグロビンミオグロビン
【基準範囲】
11.6-73.0 ng/mL
【解説】
心筋梗塞や筋肉の病気で増加します。
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BNPBNP
【基準範囲】
18.4 pg/mL以下
【解説】
心臓に負荷がかかると高値となり、心不全などの診断に役立ちます。高齢者や激しい運動後でも高値となります。
その他
IgG, IgA, IgMIgG, IgA, IgM
【基準範囲】
IgG: 870-1700 mg/dL
IgA: 110-410 mg/dL
IgM: 35-220 mg/dL
【解説】
免疫グロブリンは免疫に関わるタンパク質で、感染症、免疫の病気、血液の病気などの診断に役立ちます。
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IgEIgE
【基準範囲】
360 IU/mL以下
【解説】
アレルギー反応で主役を演じている免疫グロブリンです。アレルギーで増加します。
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CRPCRP
【基準範囲】
0.2 mg/dL以下
【解説】
感染症などで体内に炎症があると増加します。
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RFRF
【基準範囲】
10 U/mL以下
【解説】
関節リウマチで増加しますが、そのほかの病気などでも増加します。これらの検査が陽性だからといって関節リウマチとは判断できません。
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C3c, C4, CH50C3c, C4, CH50
【基準範囲】
C3c: 65-135 mg/dL
C4: 13-35 mg/dL
CH50: 30-50 U/mL
【解説】
補体は免疫に関するタンパク質で代表的なものです。C3、C4はその代表的な二つです。CH50は補体の働きの総和をあらわします。免疫の病気や感染症などで増えたり減ったりします。
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抗核抗体抗核抗体
【基準範囲】
- (40 倍以下)
【解説】
免疫の病気では自分の体の細胞を攻撃してしまう自己抗体が現れます。抗核抗体は自己抗体の代表的なもので、自己免疫性の病気で陽性となります。
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プロカルシトニンプロカルシトニン
【基準範囲】
0.25 ng/mL (抗菌薬投与判断値)
【解説】
細菌感染症のマーカーです。全身性の細菌感染で上昇します。